外出が難しい今年の年末年始。おうちで楽しむ映画をパパママ・ジャーナリスト4名の方にご紹介いただきます。第2回は、映画ライターの森直人さん。
車で3つの冒険の旅へ!
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリロジー
(1985年・1989年・1990年/監督:ロバート・ゼメキス)
タイムマシンに乗って時間旅行に出かけよう――。歴史という時間軸に沿って、自由な想像力の素晴らしさを体感できる極上のエンタテインメント。『ドラえもん』の「次のステップ」として最適だと思うのがこの傑作三部作です。第一作は「1955年」(主人公の高校生マーティの両親の青春期であり、ロックンロールやテレビドラマなどポップカルチャーの黎明期でもある)、第二作は「2015年」、第三作は「1885年」(西部開拓時代)が旅する先。この中でも特に推したいのは「近未来のテーマパーク」とでも呼ぶべき『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』です。時代設定は「2015年」なので、すでに過ぎ去っているわけですが、ここに刻まれている「気分」は永遠の宝石。明るい未来を楽天的に夢見ることができた時代のワクワクした高揚感。コロナ禍以前から「先が見えない」と言われ、SFというジャンルがディストピア物で埋まっている今、本シリーズのピュアで健全な進歩史観は本当に貴重です。
これを特定の世代(筆者含む)の専有物にしておくのはもったいない。12月4日から4Kニューマスターが劇場公開されましたが、もしお近くの劇場でまだ上映中であれば、「はじめての映画館」としても最高の体験を与えてくれるタイトルになるかと思います。監督はロバート・ゼメキス。彼の新作『魔女がいっぱい』(やはり12月4日から劇場公開。コロナ禍の影響により、本国アメリカ他ではHBO Maxでの配信となった)もあわせてぜひ!
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『フォード vs フェラーリ』
(2019年/監督:ジェームズ・マンゴールド)
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でタイムマシンに使われたのはデロリアン(1981年製造のモデル)の改造車ですが、この映画はアメリカの名門自動車メーカーのフォード社が、イタリアの精鋭フェラーリのチームとサーキットで対決した実話の映画化。1960年代後半のル・マン24時間レースを描いた傑作です。
タイトルは『フォード vs フェラーリ』ですが、実質はフォード社内部のお話がメイン。同社に所属する元トップレーサーの設計士(マット・デイモン)が、天才肌のドライバー(クリスチャン・ベイル)をチームに引き入れる。ところが彼らに保守的な組織の上層部が、くだらない社内都合をパワハラ的に押しつけてくる……。大企業のビジネスの論理と、あくまで純粋にスピードを追求する現場の攻防戦がドラマの柱になっており、そこから誇り高き一匹狼たちの「個人の尊厳」が主題として立ち上がってくる展開です。
もはや世俗的な競争とは関係ない域に突き抜けていく、シンプルで美しい世界。気分が閉塞しがちなおうち時間の憂さ晴らしとしても最高。これにハマったら、同じくレース映画の傑作『ラッシュ/プライドと友情』(2013年/監督:ロン・ハワード)もおすすめです。
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『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
(2014年/監督:ジョン・ファヴロー)
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またまた車で移動する映画で、本作ではおんぼろのフードトラック。一流レス
トランをSNS絡みのトラブルで辞めてしまったシェフの男が、キューバ料理を
メインメニューとして移動販売しながらアメリカを横断する傑作ロードムービ
ーです。
ロサンゼルスからマイアミへと出向いた主人公はそこでキューバサンドウィッ
チと出会い、ルイジアナやテキサスなど、土地ごとのソウルフードを食して、
陽気な音楽と共に旅をする。まさしく生きることの歓びに満ちあふれた開放的
な紀行が、問題を抱えていた「父と息子」の回復への過程にもなる。
一目瞭然のシンプル&ストレートな楽しい映画ではあるのですが、表現と商売
、作り手と批評家の関係など、クリエイションに関する本質的なテーマが色々
込められているのが深い。監督・脚本・主演はジョン・ファヴロー。『アイア
ンマン』(2008年)や『アイアンマン2』(2010年)、さらに『ジャングル・
ブック』(2016年)に『ライオン・キング』(2019年)など大作の監督も務
めた才人が、屋台さながらのDIY(インディペンデント)スタイルで贈る絶品
の味!