ロアルド・ダール生誕100周年

ロアルド・ダール生誕100周年

「魔法を信じない者は、それを見つけることもない」 ロアルド・ダール

Van Vechten’s photographs

唐突ですが、ロアルド・ダールという作家をご存知でしょうか? え、これまでに一冊も読んだことがないですって。それでは、ダールの本が原作となった映画はどうでしょう? ジョニー・デップが風変わりなウィリー・ウォンカ氏に扮し、黄金切符を手にいれた5人の子どもたちを不思議なチョコレート工場に招待する「チャーリーとチョコレート工場」(05)や、鶏やリンゴ酒を盗まれて怒った3人の農場主に丘の家を壊されてしまい、絶体絶命のピンチに立たされた父さん狐が、家族や森の動物仲間のために大奮闘する「ファンタスティック Mr. FOX」(09)をご覧になった方は、大勢いらっしゃるのではないでしょうか?

ロアルド・ダールは、今からちょうど100年前の1916年9月13日に、イギリスの南ウェールズのカーディフで、ノルウェー人の両親のもとに生まれました。一家は裕福でしたが、3歳の時に父を亡くしたため、幼い頃から寄宿舎学校に入学したダールは、その後、パブリックスクールへ進学します。残念ながら、彼の学生時代には、あまり良い思い出はなかったようです。何故なら、当時、上級生や教師から受けた嫌がらせや体罰といった不愉快な体験が、後の『マチルダは小さな大天才』という作品に色こく反映されているからです。

マチルダは小さな大天才 (ロアルド・ダールコレクション 16)

大学へ進学しなかったダールは、シェル石油に入社してタンザニアなどで働き、第二次世界大戦勃発後はイギリスの空軍に入隊、中東やギリシアなどでパイロットとして活躍しました。負傷のため除隊してアメリカへ渡った後、ダールはそれまでの体験やアフリカで聞いた不思議な話をもとに短編『簡単な任務』を書き上げ、本格的に作家活動を開始しました。そんな彼が児童書を書き始めたのは、1953年に女優パトリシア・ニールと結婚し、子どもが生まれてからだそうで、1961年に刊行された『おばけ桃がいく』(こちらの作品も、96年に「ジャイアント・ピーチ」として映画化されています)以降、20冊あまりの児童書を発表しました。

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ロアルド・ダールの児童書の特徴は、奇想天外な物語と個性豊かな登場人物にあります。上述の「チャーリーとチョコレート工場」に登場する謎に満ちたウォンカ氏やウンパ・ルンパ人たち。「ファンタスティック Mr. FOX」で対立しあう父さん狐と強欲な3人の農場主。かれらの存在感は強烈なので、一度ダールの本を読むと、忘れることが出来ません。でも、ダールの真骨頂は、ストレートには描かれることのない、彼独自の正義感というか道徳観にあると言えるでしょう。例えば、ウォンカ氏のチョコレート工場で我がままし放題だったチャーリー以外の4人の子どもたちは、その後、それ相応の報いを受けますし、『マチルダは小さな大天才』では、マチルダやミス・ハニーを散々いじめてきたトランチブル校長先生が、最後にはやりこめられます。

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そうした、通常のファンタジーとは一味も二味も違う、ピリリとした毒気や人間社会への皮肉を含んだダールの児童書の魅力を、さらに引き出したのが、クェンティン・ブレイクが描く、ユーモア溢れる挿絵です。ラフタッチでキャラクターの特徴を良くとらえた、軽妙洒脱なブレイクの絵をみると、真っ先にダールの児童書を思い出すほど、この2人は長年にわたって名コンビぶりを発揮しました。

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

さて、今年はロアルド・ダールの生誕100周年にあたります。ロンドンでは、『チョコレート工場の秘密』や『マチルダは小さな大天才』が舞台化され、生誕地イギリスやアメリカを中心に、様々なイベントが開催されています。そしていよいよ、9月17日からは、原作『オ・ヤサシ巨人BFG』をスティーヴン・スピルバーグ監督が映画化した「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」が、日本でも公開されます。次回の〈こども映画図書館〉では、この最新作について取り上げようと思っていますので、どうぞ、お楽しみに。

ロアルド・ダール公式HP(英語)

Text by Riko Yamoto 矢本理子
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