
スペイン内戦直後の時代を背景に
少女の目に映った世界を詩情豊かに描く
1940年、スペインのカスティーリャ地方の静かな村を舞台に、6歳の少女アナとその家族の姿を描いた作品。時代背景は、スペインの内戦終結直後。内戦に勝利したフランコ軍は後に独裁政権となります。
村にやってきた巡回映画の「フランケンシュタイン」に出かけたアナと姉のイザベル。アナはフランケンシュタインが誤って少女を殺してしまうシーンに魅せられて「なぜ、彼は女の子を殺しちゃったの?なぜ、村人たちは彼を殺しちゃったの?」とイザベルに問います。イザベルは「彼は死んでいないし、少女も死んでいない。なぜなら映画は作り物だから」と答え、村はずれの廃屋にアナを連れて行き「ここが彼の家よ」と教えます。イザベルは信じやすいアナをからかったのですが、アナは小屋に通い、怪我をして隠れていた脱走兵に出会います……。
白い家の壁。単線でどこまでも続く線路。吹きさらしの野にぽつんと取り残された小屋。暗いお屋敷。華やかなものとは程遠いのに、場面のひとつひとつのシーンが印象的な美しさです。アナの父、フェルナンドは何かを避けるようにミツバチの研究に没頭し、母のテレサは遠く離れた誰かに向けて日々の生活を手紙に書き綴っています。家族は内戦という混乱の中で、心もばらばらになっているような暗示がされます。そんな中でじっと物事を見つめている、アナの大きな瞳。実は言葉にできないだけで、物事をしっかりと感じているのが伝わってきます。この映画が撮影された当時、スペインはまだフランコの独裁政権下にあり、映画の表現に関しても不自由があったと推察されます。監督のビクトル・エリセは、ささやくように言葉は少ないけれど、イメージ豊かな重層的な作りのこの映画にさまざまなものを込めています。(上坂 美穂)
日本語音声:なし
白黒/カラー:カラー
製作年:1973年
出演:アナ・トレント
出演:イサベル・テリェリア
製作国:スペイン
原題:EL ESPIRITU DE LA COLMENA
備考:

- この映画は、子どもがはじめて「映画」に出会うことを描いた映画でもあります。アナは「フランケンシュタイン」に魅せられて、現実の中に映画の中の出来事を探しますが、そんなふうに夢想することは子どもでも大人でもありますよね。また、直接描かれないところにこそ、実は大事なものが隠れている映画です。子どもには、ぜひこの映画的な、静かで豊かな時間を体験して欲しいと思います。