「借りぐらしのアリエッティ」

映画と本をご紹介するコラムです。第2回は『借りぐらしのアリエッティ』の原作本です。

「床下の小人たち」
矢本理子(Rico Yamoto)

スタジオジブリが、イギリスの児童文学の名作「床下の小人たち」をもとに、日本を舞台にしたアニメーションを製作するという話を聞いたとき、はじめは、へえ、あのメアリー・ノートンの素敵な原作を、一体どんなふうに映画化するのだろう、と生意気にも思ってしまいました。

1952年に本国で刊行された「床下の小人たち」は、その後、世界各国で翻訳され、大勢のファンを獲得しています。作者のノートンは、3冊にわたる続編を書き、計4巻から成る≪小人の冒険シリーズ≫を完成させました。

この小人たちの物語には、私も小学生の頃、夢中になりました。そして自分の家にも小人がいるに違いないと思いこんだ私は、彼らが運びやすいようにと、籐かごの木屑を集めては毛糸でしばって、家中の部屋の隅っこに置いたりして、掃除中の母から叱られたものです。

イギリスの片田舎にある古いお屋敷で暮らす、14歳の小人の少女アリエッティと、父ポッド、母ホミリー。一家は、台所の床下でひっそりと暮らしていました。しかし、父親と共に初めての“借り”に出かけたアリエッティが、人間の男の子に<見られ>てしまったことで、アリエッティの家族は、住み慣れた床下の家から、別の場所へ移住する羽目におちいります・・・。

アリエッティたちは当初、慣れない野原での生活を余儀なくされます(「野に出た小人たち」1955年出版)。しかし、アリエッティはむしろ、戸外での生活をのびのびと楽しみます。彼らの生活を支えてくれる、野育ちの小人、スピラーが登場するのも、実はこの2巻目からなのです。

その後のアリエッティ一家には、ジプシーにつかまりそうになったり、森の木こり小屋に住んだり、模型の村で見世物にされそうになったり・・・と様々な試練が続きます。でも、そうしたお話については、シリーズの「川をくだる小人たち」(59)や「空をとぶ小人たち」(61)を、ぜひ読んで頂きたいと思います。

アニメ版「借りぐらしのアリエッティ」の設定は、ほぼ原作と同じです。12歳の少年・翔が、病気療養のため、郊外の大おばの家へやってきます。彼が到着日そうそう、庭で小人の少女を見かけたことから、物語は始まります。アニメ版では、原作にはないとんだ災難が小人たち一家にふりかかりますが、アリエッティは、人間の少年・翔の協力を得て、その困難な状況を切りぬけるのです。

私は、映画「借りぐらしのアリエッティ」を、少年と少女の成長物語として受けとめました。
翔は心臓に病をかかえており、手術を前に、生きる気力を失っていました。でも彼は、アリエッティと出会ったことで、彼女から、行動することや勇気を学びます。一方、アリエッティはどうでしょうか? 彼女の無鉄砲な行動は、小人の種族に災いを呼びよせてしまいます・・・。

でも彼女は、小人たち種族の新しい世代に所属しているのです。アリエッティはその好奇心によって、小人の種族が長いあいだ恐れてきた人間の中には、自分たちの味方になってくれる者もまた存在するという事実を、発見するのです。


『借りぐらしのアリエッティ』ブルーレイディスク
(C)2010 GNDHDDTW
価格:7140円(税込)/発売中
発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

さきほど、原作シリーズは4冊と申し上げました。私が小学生の頃はそうだったのです。でも実は、このお話には続きがあります。最後の1冊であった「空をとぶ小人たち」から約20年を経たのち、ノートンは突如「小人たちの新しい家」(82年)を発表します。

社会人になってから、この新作を本屋で発見した時の驚きと歓びは、忘れられません。もしも皆さんの中に、子ども時代、あのシリーズに夢中になった方がいらっしゃいましたら、アリエッティたちの新しい冒険談も、ぜひお読みになって下さい。そこには、1950年代から60年以上たった今も、良い方向に向かっていない、我われ人間が住む世界の現状に対する、ノートンの重大なメッセージがこめられていると、私は信じています。

※年度はすべて、イギリスでの出版年です。

岩波少年文庫刊
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/jidou/index.html

作者:メアリー・ノートン
「床下の小人たち」「野に出た小人たち」「川をくだる小人たち」 「空をとぶ小人たち」訳者:林 容吉
「小人たちの新しい家」訳者:猪熊 葉子

矢本理子(Rico Yamoto)
東京うまれ、茨城県そだち。大学では社会学と歴史学を、大学院では西洋美術史を学ぶ。
1995年に岩波ホールへ入社。現在は宣伝を担当。

広告