子どもの未来を考えるドキュメンタリー

今回ご紹介するのは、親としてぜひ見てほしい3本のドキュメンタリー映画。子どもたちの未来をよりよいものにするために、考えて欲しいテーマが詰まった作品ばかりです。

食の巨大企業「モンサント」の裏側
まず、1本目は食の安全について警鐘を鳴らす「モンサントの不自然な食べもの」。フランスのジャーナリストでドキュメンタリー映像作家のマリー=モニク・ロバンが、多国籍企業「モンサント」の裏の姿を捉えています。
豆腐や納豆、ポテトチップスなどを買う時に、私たちが目にする「遺伝子組み換えでない」という表示。この表示の意味を気にしたことがありますか? その答えが分かります。


「モンサントの不自然な食べもの」
渋谷アップリンクほか全国順次公開中

映画はまず、フランス人のおじさん二人がアメリカに本社を構えるグローバル企業「モンサント社」の製品「ラウンドアップ」という除草剤について庭で話をしているところから始まります。「この除草剤はすごく効くんだよね」。その除草剤は、アメリカの大規模農園の大豆畑でも使われています。この農薬を使うと、大豆以外の雑草はみんな枯れてしまい、大豆だけが枯れないので大変効率がいいそうです。

しかし、モンサントが作っているのは除草剤だけではありません。かつては化学企業だったモンサントはその経験を「活かし」、現在は農業分野に進出。そのシェアは世界の遺伝子組み換え作物の90パーセント。もちろん、大豆も遺伝仕組み換え作物です。また、種の管理をするという名目で、規約に違反したアメリカの農民を提訴しています。

また、映画の中には健康被害に関する多くの人々の証言も出てきます。人間の体に害を与えかねない食品と、食物市場の支配というふたつの懸念は、TPP(環太平洋戦略的経済協定)に日本が参加すれば、実際に私たちの問題になることも見逃すことは出来ないでしょう。

カルカッタのやんちゃ坊主ビラルの物語
2本目は、インド・カルカッタの路地で暮らす男の子ビラルを主人公に、貧しい暮らしの中をたくましく生きている家族の姿を捉えたドキュメンタリー映画です。
ビラルは3歳。下に弟がいます。彼の両親は目が見えません。盲学校で知り合って、ヒンズー教徒とイスラム教徒という宗教の壁も乗り越えて結婚した父母は、大勢の親戚たちが隣近所にいる環境で、つつましくも暖かい家庭を持っています。


「ビラルの世界」10月6日より
東京・オーディトリウム渋谷ほか全国順次公開
© son et lumiere

ビラルを始め子どもたちの生き生きとした姿がとても愛らしく、すぐ画面に引き込まれてしまいます。またお世辞にもきれいとはいえない家の中ですが、そのめちゃめちゃぶりは、子育てに奮闘している親御さんなら不思議にほっとしてしまいそう。

両親とも目は見えませんが、親戚たちの助けも借りてしっかり子育てしているし、詐欺にあって財産を失ったりする不運もありながら、何とか生きていくために新しい商売を始めたりするたくましさに驚嘆。また、姑の愚痴を言ったり、いたずらっ子のビラルを叱る時につい手が出てしまうお母さん、学校へ行くビラルを愛しげに油で擦ってやるお父さんなど、私たちとなんら変わりない日常生活が営まれていることになんだか感動します。人間の生活の「豊かさ」について考えさせられること間違いなし。

しかし一方で、1本目の「モンサントの不自然な食べもの」と、ビラルの世界は大きな意味で繋がっていることも忘れてはならないでしょう。都市で貧困のうちに暮らす人々は「食物を買う」ことでしか生きていけないのです。また、食物や種を支配されてしまった農民たちが、都市に流入して生きていかざるを得ない現実というものも一方であるのですから。

311後の現実と向き合う
最後は、私たちの日本の映画「フタバから遠く離れて」。福島第一原発の5号機と6号機が立地していた福島県双葉町の住民の避難後の姿を追ったドキュメンタリーです。


「フタバから遠く離れて」10月13日(土)より
オーディトリウム渋谷ほか全国順次ロードショー
©2012 Documentary Japan, Big River Films

311後、町全体は警戒区域となり、急遽1423人が役250キロ離れた埼玉県の旧騎西(きさい)高校へ避難します。地域社会まるごとの避難という前代未聞の事態の中、激変する環境の中で、住民たちはどんな風に過ごしてきたのでしょうか?

「終わりだ、何もかも、苦労して建てた家も流されて、みんなパーだ」。映画の中で語る男性。東北のほかの地域の復興が進んできた報道に「あっちばっかり写してるんだもの。(放射能は)目に見えないから……」と唇をかむ女性。そしてデモでは威勢のいい叫び声をあげながら、終わったあとに「無駄だって分かってるんだ。帰れないって分かっているんだ」と、淡々と語る女性。個人的な話ではありますが、私自身が津波被災地を故郷に持っているため、ひとごとではなく理解できる部分もあり、その一方で、放射能によって引き裂かれてしまった断絶の前には言うべき言葉がありません。

監督は奇しくも広島の被爆2世だそうです。映画には双葉町長も登場し、原発によって発展してきた町、そしてその恩恵が短い夢に終わった後のこの惨状を町長自身の言葉で語ります。311後の「現実」をありのままに見つめようとするまなざしが感じられる映画です。

3本の映画を見て考えたこと
私たちの未来には、この先、いったいどのような形の現実が待ち受けているのか……。決して明るい気持ちではないことは確かです。
ただ、一つだけいえるのは、希望がないように見える世界でも、人が生きていくためには希望を持つことが必要だということです。しかしどうやって? それはたぶん、現実から目をそらさずに見つめつることと、行動していくことだけでしか、答えが出ないのだと思います。原発問題に関することのように、一筋縄ではいかない複雑な現実の面をひとつひとつ解きほぐしていくためにも、私たちはさまざまな映画をみたり、本で学んだり、人の話を聞いたりすることが必要なのだと思います。ぜひ、この3本の映画で考えてみてください。(上坂 美穂)


「ビラルの世界」ソーラヴ・サーランギ監督のお話
監督がビラルと出会ったのは、ビラルの母親が参加する視覚障害者のための劇団を監督の奥様が手伝っていたことがきっかけです。
撮影は1年2ケ月行い、1年半かけて160時間あった映像を、90分にまとめました。発展目覚ましいいインドにおいては、ビラルのような家族が大多数を占めます。発展の恩恵にあずかれる人はごくわずか。富の配分の社会システムは機能していないと監督は言います。

「この作品を通しての大きな発見は、貧困の状況の中でも、盲目の両親のもとでも、子どもというのは、子どもであることを精一杯喜び、楽しむことができるということです。それは誰も奪うことができない喜びです。自分がどのような状況に置かれていても、生きていけるというようなことを知って、私自身も勇気付けられました」と監督は語ります。
「この映画を通して、ビラルたちに同情するのではなく、共感や理解を観客に持ってもらいたい。チャリティーはいらない」とも。

ユニセフの世界子供白書2012は、「都市に生きる子どもたち」の問題を取り上げています。現在、世界人口の約半分が都市に暮らし、そのうち子どもは10億人を超えます。都市居住者の3人に1人はスラムで暮らしています。都市はインフラや医療などが充実していますが、スラムに暮らす子どもたちはその恩恵を受けることができません。ストリート・チルドレン、人身売買された子どもや過酷な児童労働に従事する子どもなど、彼らの権利を守る取り組みにユニセフは注力しています。

※7月3日に東京港区にあるユニセフハウスで、「ビラルの世界」の上映会が行われました。

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