架空の駅をつくっちゃいました

美術チームが作りあげた架空の駅

美術 安宅紀史
1971年石川県生まれ。東京造形大学中退後、映画美術の会社に入社。2000年頃より、美術監督フリーとして活動。代表作に『父と暮せば』(04)、『デトロイト・メタル・シティ』(08)、『南極料理人』(09)、『ノルウェイの森』(10)、『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)などがある。

画面に映るすべての物を用意する美術の仕事
俳優以外で、画面に映る物すべてを用意するのが美術の仕事です。ただし、俳優が身につける衣装は衣装部が用意します。
作品にあわせて安宅さんがスタッフを集めて美術チームを作ります。美術4名、装飾3名、持ち道具(俳優さんが使う小道具~靴、時計、煙草など)が2名といった具合です。少ないときは、それぞれの役割をかねて2~3名ということもあります。
まず脚本をじっくり読み込んで、監督と話し合った上で、映画全体の色や場所のトーンや統一感をつかみます。安宅さんは監督の考えにいかに寄り添って美術をつくれるかに心を配っています。

全体のコンセプトをさらに監督とすり合わせたら、撮影場所を探します。今回安宅さんが美術を担当した『横道世之介』の主人公・世之介のアパートは、5~6件をリサーチして撮影のしやすさや窓から見える風景などで決めたそうです。次に登場人物の部屋のスケッチや図面を仕上げていきます。これにもとづいてスタッフが、部屋に置くベッドや装飾品を調達します。

時代の雰囲気や登場人物のキャラクターを伝える工夫
『横道世之介』は1980年代が舞台ですが、映画には何年というテロップが出てきません。観客が映像全体から時代を感じられるようにしながらも、あまり時代が全面に出すぎないよう工夫したそうです。それはファンタジックなところがある映画なので、リアルにしすぎないようにしたからです。
撮影が始まると、美術チームは次の撮影場所の準備にとりかかります。そして撮影が終わるとそのセットを解体します。『横道世之介』で大がかりだったのは、劇中主人公たちが待ち合わせをする駅前のシーンです。何もないところに駅の階段や看板をすべて作りこんだそうです。

『エイリアン』を観て、映画の仕事に憧れた子ども時代
安宅さんは子どもの頃は、漫画家になりたかったそうです。映画も好きでしたが、運命的な出会いだったのは小学校低学年で見た『エイリアン』。映画美術のすごさに驚いたそうです。安宅さんは映画監督に興味がありましたが、どうすれば映画の仕事につけるか分からずにいました。そんな時、知人の紹介で映画美術の会社に入社します。右も左もわからないまま持ち道具係りとして仕事を始め、最初は撮影現場の仕事が、イメージしていたのと違い戸惑ったそうですが、2~3年経って仕事の面白さが分かってきました。
そんな安宅さんが美術の仕事で充足感を感じるのは、「思った通りに映像が仕上がったとき」。撮影中や完成した映像を見て、意図した効果が出ているときが、一番うれしい瞬間だそうです。

安宅さんがいつも持ち歩いている七つ道具。方眼紙、色見本帳、メジャー(メーターの他に尺寸がついている特別なもの)、カメラ。

今までの経験に縛られないことが大切
美術の仕事をする上で大切なことは何か、安宅さんに伺いました。「まず、先入観を持たないこと」と安宅さんはおっしゃいます。過去の経験に縛られず、常に初心にかえって仕事をすることが大切です。普段から心がけているのは、映画を見ることよりも、本を読んだり絵画を見たり、音楽を聴いてイメージをふくらませることだそうです。
またこの仕事に欠かせないのは人の話を聞いて、理解する力です。監督のイメージを引き出して、それを監督が意図していた以上のものとして提示する・・・これこそが美術の仕事のもっとも大切な部分なのです。(聞き手:工藤雅子)

(C)2013『横道世之介』製作委員会
『横道世之介』公開中
公式HP

取材協力:調布日活撮影所

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