NY 寒い夜の体育館を笑いで包んだバナナ軍団

ブライアント・パークから見るエンパイア・ステート・ビルディング

寒い夜の体育館を笑いで包んだバナナ軍団
久島幸子(Sachiko Hisajima)

ニューヨークの2月はとにかく寒かった。そして、3月もまだまだ寒い日が続く。九州出身の私には辛い季節である。しかし、ニューヨーカーはいつも元気だ。いつも何かしら楽しいことや刺激を求めて、いかなる気温にも拘わらずフットワークが軽い。氷点下の日でもジョギングをする人達。吹雪の翌日、そりすべりをするため公園にあつまる子ども達。セントラル・パークやブライアント・パークのスケート場は氷点下でも入場するのに列が出来る。ニューヨーカーに暇な時間はないようだ。

ブライアント・パークのスケート場

寒い中でも忙しいのは、娘の学校も例外ではない。2月、3月は行事のオンパレードだ。2月の下旬には3年生から5年生対象の、ムービー・ナイトというのがあった。子ども達が夕方の5時半から7時半まで体育館でピザを食べながら映画を見るという催しだ。(ピザは子どもの行事にはつきものだ。)子ども達はパジャマを着てスリッパを履く。(普段、アメリカの学校でスリッパは履かない!)お気に入りの毛布やぬいぐるみも持って行く。

実はこのイベントは、去年アメリカ北東部を襲ったハリケーン・サンディで被害を受けたニューヨークのスタテン・アイランドの子ども達に送るテディベアの代金集めのイベントだった。参加者一人12ドルを払ったのだが、集まったお金は被災地の子どものために使われる。アメリカの学校ではこうした地域のための募金活動がとても盛んだ。

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さて、そのムービー・ナイトで上映されたのは2010年公開の「怪盗グルーの月泥棒」だった。私は見たことがなかったので、早速ニューヨーク公共図書館からDVDを借りてきた。題名は英語で、「Despicable Me」。Despicable は「卑しむべき」「卑劣な」という意味。とっても嫌なやつが主人公だ。その主人公は、盗みや嫌がらせで世界一の悪党を目指す子ども嫌いのグルー。ライバルのベクターがエジプトのピラミッドを盗みニュースのヘッドラインを飾る一方で、最近大きな仕事をしていない自分にあせりを感じ、もっと世間を騒がせる盗み―月を盗むこと―の計画実行を進める。ひょんなことから孤児院の三人姉妹を養女にして、はちゃめちゃな展開の中にも心温まる人間模様が繰り広げられる。

子どもの頃から何をしても母親に認められずに大人になったグルーは、三人姉妹の養女の父親になって初めて母親に、いい父親をしている、と最後の場面で褒められる。私は、この一言でこの映画のすべてがハッピーエンドで終わった気がした。子どもじみたストーリー展開の中にも胸がキュンとする場面がいくつか出てくる。

多くのジョーク、ヒット映画の引用など、アメリカ映画ファンならとても楽しめる内容に仕上がっている。また、主人公グルーの訛りのある英語はこの映画の面白さを引き立てているようだ。学校のムービー・ナイトでは、グルーのバナナのような(娘にはポテトに見える)手下軍団ミニオンが登場する場面がとても受けていたらしい。娘の友達は10回以上見たにも拘わらずムービー・ナイトでも笑い転げていたそうだ。夜の体育館は大きな笑いに包まれ、2月の寒さは吹き飛んだようだ。

雪のセントラル・パーク

久島幸子(Sachiko Hisajima)
佐賀県伊万里市出身。フリーランスライター、翻訳家、画家。
日本の航空会社で11年半客室乗務員として勤務した後、アメリカ留学。ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ卒業、ニューヨーク市立大学シティーカレッジで美術史の修士号取得。ニューヨーク市内で夫と娘の3人で暮らす。家族3人での映画鑑賞と意見交換は家族の大切な時間となっている。

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