だれのエプロン?

スクリプターの仕事

赤澤環
OLを経て、日活芸術学院に入学。卒業とともに日活入社。95年からフリー。
【代表作品】『Railways 愛を伝えられない大人たちへ』(2011)『君に届け』 (2010) 『おくりびと』(2008)『大日本人』(2007)

映画の最後に流れるエンドロールにスタッフとして「スクリプター」や「記録」として名前が出てくるのをご覧になったことはありますか? 今回は、『君に届け』 (2010) 『おくりびと』(2008)などでスクリプターをされている、赤澤環さんにお仕事について教えて頂きました。

スクリプターは、映画のつながりを見る仕事
映画は、お話の順番通りに撮影するとは限りません。撮影したフィルムを、編集する時に順番が分からなくなったり、映像やセリフのつじつまが合わなくならないよう、撮影現場で細かい記録をつけるのがスクリプターの仕事です。
赤澤さんは「スクリプターは、つながりを見る仕事」だと言います。例えば、すでに撮影したカットでコップを右手に持っていたのに、そのすぐ前後につなげるカットの撮影時に左手で持ってしまうと、映像がつながらなくなってしまいます。袖をまくっていたとか、ボタンをはずしていたとか・・・本当に細かいことを、ひとつひとつ記録していきます。
俳優も台本通りにセリフを言うとは限らないので、セリフをチェックし、変更するかどうか俳優、監督と相談して決定します。
また、1つのカットについて、監督は何回か撮影してみて、一番気に入ったものを使います。スクリプターは監督がOKしたものはどれで、NGだったのはどれか、なぜNGなのか、カットの秒数、カメラワーク、セリフの変更や内容の変更、監督の意図はどのようなものであるかなども書いていきます。

このシート1枚に1カットごとに書いていきます。下の部分は切り離せるようになっていて、撮影が終わるとすぐに編集者にこれをフィルムと一緒に渡します。この下部分は「ネガ送り」と呼ばれています。

OLからスクリプターへ
赤澤さんは、会社員となったものの仕事がつまらなくて、子どもの頃から大好きだった映画の仕事ができないかと調べてみることにしたのだそうです。映画の製作現場で女性が活躍する仕事の一つが、スクリプターだということが分かります。スクリプターならば撮影から作品が出来上がるまで参加でき自分にもできるかもしれないと、日活芸術学院に入学。卒業後日活撮影所で修業をつみ、95年 からフリーに。

赤澤さんの七つ道具の一つ。
ストップウォッチは必需品。

スクリプターは「協調性」が大切
スクリプターにとって一番大切な素質はなんですか?と赤澤さんに伺ったところ「協調性」と答えが返ってきました。それというのも、いろんな部署とスクリプターは仕事をしなければならないからです。撮影が始まる前から、スクリプターの仕事は始まります。脚本を読んで、監督の演出意図を聞いたり、セットや小道具がどうなっているか、衣装がどうなるのかを事前に確認します。撮影後は、編集に立ち合い、ダビング(最終的な音入れ作業)時に向け、アフレコをしたり、録音技師や音響効果の方とも打ち合わせをします。また、最終的に出来上がった作品の内容に合わせて、セリフやト書き、音楽などすべてを記入した完成台本も作ります。

記録を付けるときに様々なペンが役に立つ。

全体を見渡して撮影がスムーズに進むよう調整するのが、スクリプターの大切な仕事なのです。最初の頃は、鉛筆の向きが右か左かといった、細部にばかり目が行っていたそうです。経験を積むうちに、衣装やセット、セリフが、そのシーンにとってどんな意味があるのかを考えた上で、記録するのがスクリプターの本当の役割だとわかってきたともおっしゃっていました。

暗いところでも手元の台本を見ることができる。

お父様との思い出の映画「タワーリング・インフェルノ」
赤澤さんの子ども時代の思い出の映画は、小学校5年生の時にお父様と見に行った「タワーリング・インフェルノ」。一緒に乗ったバスのことや、交わした会話など今でも鮮明に覚えているそう。「父が見たくて一緒に連れていかれたのですが、大人の映画を映画館で初めて見たのがこの作品。スペクタクル大作として、映画の楽しさを知りました。今では、父との良き思い出となっています」。
他にも「大脱走」や友達と見に行ったビートルズの「イエローサブマリン」、中学校で団体鑑賞した「ロッキー」などたくさんの映画が、感情の豊かさを育ててくれたとおっしゃいます。

赤澤さん特製のエプロン。仕事に必要なものをすぐに取り出せるよう工夫がされています。

スクリプターは映画の針と糸
スクリプターの仕事で一番うれしいときは?と赤澤さんに尋ねると、「監督に提案したことが採用され、作品がぐっとよくなったとき」と答えてくださいました。また、スクリプターの仕事は映画を見ると良し悪しが分かるものでしょうか?と伺ったところ、「スクリプターの仕事が映画に見えてしまったら、それは悪いスクリプターということ(笑)」との答え。
スクリプターは、映画全体がばらばらにならないよう縫い合わせる「針と糸」のような存在。それでいながら完成した作品には、糸も針も決して見えない。究極の黒子でありながら、なくてはならない仕事、それがスクリプターなのです。(聞き手:工藤雅子)

取材協力:日活芸術学院

広告