「白雪姫と鏡の女王」

映画と本をご紹介するコラム、第6回です。

「白雪姫と鏡の女王」
矢本理子(Rico Yamoto)

つい最近、女の子が観たらすごく元気になる、華やかで楽しい映画を観ました。先日、公開が始まった「白雪姫と鏡の女王」です。誰もが知っている〈白雪姫〉のお話ですが、細かいエピソードや登場人物の描写が、原作からは、ずいぶんとかけ離れています。まず残念なことに、映画版の王子さまは、あまり格好よくありません。白雪姫と初めて出会うシーンからして、少し情けない登場の仕方をします。また、森に迷いこんだ白雪姫を助ける7人の小人たちは、なんと盗賊なのです。そしてさらに、白雪姫自身が、現代的な女の子である点が新しいと思います。意地悪な継母の女王によって18年間もお城に閉じこめられていたので、世間知らずな女の子ですが、彼女には行動力がありますし、新しいことを学んで、どんどん賢くなっていきます。映画版の白雪姫は、おとぎ話に登場する白雪姫のように、魔女に何度もだまされてしまうような、かよわい乙女ではありません。

でも、なんといっても、「白雪姫と鏡の女王」の面白さは、適役の鏡の女王にあります。今回、初の悪役に挑んだジュリア・ロバーツが演じる女王は、おとぎ話に登場する、白雪姫を亡き者にしようとする魔女とは違います。鏡の女王は、我がままでうぬぼれ屋で、贅沢ざんまいのあげく王国のお金を使いきってしまう困った人ですが、どこか憎めない面もあります。自分の美貌を永遠に保とうとする努力家ですし、自身の欲望を満たすために周りの人々を振りまわしてしまう、はた迷惑なタイプの女性なのです。そう、私たちの身近にもいそうな、パワフルで溌らつとした女性2人が、王子さまをめぐって戦うのが、現代版の〈白雪姫〉なのです。

この、ユーモアあふれる映画を撮った監督は、インド出身のターセム・シン。デビュー作「ザ・セル」(2000年)の独創的な映像が話題となり、その後も「落下の王国」(06年)や「インモータルズ ‐神々の戦い‐」(11年)など、映像美にすぐれた作品を発表しています。20代でアメリカに渡りデザインを学んだシン監督は、CMディレクターとしても活躍しています。実は、「ザ・セル」以降、彼の映画の衣装を4作品担当してきたのが、日本の衣装デザイナーの石岡暎子さんでした。「白雪姫と鏡の女王」にも、おとぎ話だからこそ可能な、色鮮やかで、奇抜なデザインの衣装が300着あまりも登場し、私たちを魅了してくれます。しかしながら、石岡暎子さんは、今年の1月に亡くなられたので、残念ながら、本作が遺作となってしまいました。

それでは、今度は一転して、原作〈白雪姫〉について、少し学ぶことにしましょう。皆さんは、グリム兄弟をご存じでしょうか? 18世紀後半にドイツのハーナウで生まれた、ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟は、共にマールブルク大学に進学し、ザヴィニー教授の元でゲルマン法や古代ゲルマンの伝説などを学びました。その後、兄ヤーコプは言語と法律の研究者に、弟ヴィルヘルムは言語と文学の研究者になりました。当時ドイツで盛んだった、ロマン派の文学運動の中心にいた詩人のクレーメンス・ブレンターノとアヒム・フォン・アルニムから、昔話集の編さんへの協力を頼まれたグリム兄弟は、民間伝承を集めて、1812年に「子どもと家庭のための童話集」を出版しました。現在、私たちが「グリム童話集」と呼んでいるのは、この本のことなのです。〈ヘンゼルとグレーテル〉、〈いばら姫〉、〈ブレーメンの音楽隊〉などのお馴染みの昔話が〈白雪姫〉と共に収められているこの「童話集」は、その後、何度か改訂版が出され、1857年に出版された、200話から成る第7版が、最終版となっています。


フェリクス・ホフマン編・画、大塚勇三訳 福音館書店

日本にグリム童話が初めて紹介されたのは明治20(1887)年のことで、大正13(1924)年には、金田鬼一氏によって最初の全訳が出版されました。今年は、「グリム童話集」が出版されてから、200周年の記念の年にあたりますので、グリム童話やグリム兄弟にまつわる様ざまなイベントが、日本各地でも開催されています。「白雪姫と鏡の女王」には、原作とは異なる、驚くような仕かけがあるのですが、映画の鑑賞後に原作を読んでみると、さぞかし面白いことでしょう。映画版では、どのような改変が行われているのかを、色いろと発見できるに違いありません。

「白雪姫と鏡の女王」公式サイト

参考文献
○「グリムの昔話 2」
(フェリクス・ホフマン編・画、大塚勇三訳 福音館書店、2002年初版刊行)
○「初版グリム童話集5」
(ヤーコプ・グリム、ヴィルヘルム・グリム、吉原高志・吉原素子訳
白水Uブックス、2008年刊行)
グリムの森公式サイト
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