ニューヨークっ子お気に入りのミュージカル映画

「こどもと映画」をテーマに、世界各地からのエッセイを月1回お届けいたします。第6回の担当はNY在住の久島幸子さんです。

ニューヨークっ子お気に入りのミュージカル映画
久島幸子(Sachiko Hisajima)

やっと長い夏休みが終わった。10歳の娘が通うニューヨーク市内の私立の学校の夏休みはなんと3ヶ月だ。この3ヶ月の間、映画好きの娘は劇場公開の4本を含めかなりの数の映画を見た。そんな娘が最近気に入っているDVDを紹介したい。

ニューヨークの町は音楽、ダンス、そして演劇で満ち溢れている。地下鉄のプラットホームや歩道で、マイク片手に歌う人や楽器を演奏する人、その音楽に合わせて踊りだす通行人などは毎日目にする光景だ。また、街中やテレビの広告は、テレビドラマ、映画、ミュージカル、そしてオペラの宣伝で溢れている。そんなニューヨークで生まれ育った娘は、歌、踊り、演劇が好きだ。学校でも何かと演じる機会が多い。毎年春には4年生と5年生の合同の演劇祭がある。この春4年生だった娘は、いくつかのミュージカルを合わせて一つのストーリーを作った作品の中で、アニーを演じた。歌はそれぞれのミュージカルからの抜粋で、娘は2週間の特訓の末、何とか「Maybe」を歌い終えた。

娘の友達も演ずることが好きだ。お互いの家に行って遊ぶときは、勝手にクローゼットをあさり衣装を選んで自作自演の劇をやっている。娘の誕生会は、毎年学校の友達数人を家に呼び、遊んで、食べて、そしてDVD鑑賞をやる。今年のDVDはもちろん映画「アニー」。春の演劇祭が終わって間もなかったのでこのDVDの選択は友達にとても受けていた。「Maybe」や「Tomorrow」は全員が声を張り上げて画面と一緒に歌っていた。

作品名:アニー スペシャル・アニバーサリー・エディション
発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
価格:1,480円(税込) セルDVD 品番:OPL-10072

そうして夏休みに通ったサマーキャンプでは、ダンスのクラスで、またまた「アニー」の一場面のダンスとなった。生徒は孤児院の女の子に扮して、雑巾を持っての踊りに汗を流した。

この10月にはミュージカル「アニー」がブロードウエイに戻ってくる!今年は娘にとって「アニー」の年となりそうだ。そして、映画「アニー」は娘のお気に入りのDVDの一つとなった。

映画「アニー」は、ブロードウエイ•ミュージカル「アニー」を基にして1982年に製作されたミュージカル映画だ。1930年代の世界大恐慌直後のニューヨークを舞台に失業者溢れる街中の孤児院の孤児たちの様子を映し出している。生活苦溢れる社会情勢は、リーマンショック以来の今のアメリカと似ている。失業率の大幅な改善は見られず、ホームレスの数は増える一方だ。無料で食事を配る機関や教会の前には、以前にも増して長い列が続いている。

撮影の多くは隣の州のニュージャージーで行われたらしいが、ストーリーはニューヨークが舞台となっているため、ニューヨーク在住の私たちには馴染み深いランドマーク、ニューヨーク公共図書館やラジオシティー•ミュージックホールなども出てきて、ますます画面に引き込まれる。

「アニー」は、私の好きな映画の一つでもある。1999年版も製作されたが、1982年版が、キャストのインパクトが強く、細かい場面の演出にも手が込んでいるというのが私の意見だ。また、アニー役のアイリーン•クインのはつらつとした愛くるしさは、何度見ても私を魅了する。娘は孤児院の院長ミス•ハニガンの演技がお気に入りだ。酒好きで酔っ払ってチンプンカンプンな受け答えをする場面ではいつも大笑いだ。酔っ払いの歌や踊りも毎回受けている。

私の好きな一場面は、アニーがビリオネアーのウォーバックス氏の大豪邸に着き、その家が好きになりそうと興奮しているところ、ウォーバックス氏は女の子の孤児は要らないと言う。そこでアニーが、「汽車のように大きな車に乗れたし、プンジャブが犬のサンディーに魔法をかけてくれたし、デュレイクにくしゃみさせたし、パイプオルガンも弾けたし、サンディーはバブルバスにも入れたし、もう十分に数年分の楽しみを味わった。」*と言うところだ。物が溢れている今の時代、些細なことに満足を見出すことが難しくなっている。アニーのこの小さな一つ一つのことに喜びを感じることの出来る感覚にとても好感がもてる。お金とパワーにしか興味がなかったウォーバックス氏もこんなアニーにどんどん惹かれていく。(* 訳:久島幸子)

また、アニーがウォーバックス氏とみんなで「Tomorrow」を歌うところは、なぜかいつも泣けてくる。娘はこの場面を見るたびに一緒に大声でこの歌を歌っている。今は辛くても明日になればきっといいことがある。この歌がこの先もいつも娘の心のどこかに残ってくれればいいと思う。

久島幸子(Sachiko Hisajima)
佐賀県伊万里市出身。フリーランスライター、翻訳家、画家。
日本の航空会社で11年半客室乗務員として勤務した後、アメリカ留学。ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ卒業、ニューヨーク市立大学シティーカレッジで美術史の修士号取得。ニューヨーク市内で夫と娘の3人で暮らす。家族3人での映画鑑賞と意見交換は家族の大切な時間となっている。