韓国・釜山の子ども映画祭

「こどもと映画」をテーマに、世界各地からのエッセイをお届けしている「こども地球儀」。今回は番外編として、釜山で行われた子ども映画祭に行かれた配給会社パンドラの中野理惠さんのレポートをおおくりします。

第7回釜山子ども映画祭
中野理惠

7月20日(金)から24日(火)まで、韓国釜山で開催されている第7回釜山子ども映画祭に20日と21日の2日間だけ出席してきた。この十年あまりの韓国映画の驚異的な発展の源泉を目の当たりにしたような思いだ。簡単にレポートしたい。

子どもたちが製作した映画も上映
会場の釜山シネマセンターは海岸に近く、広いエントランスのあるシネコン形式のスクリーンのある新しい大きなビルで、壁に釜山映画祭のロゴマークが描かれている。映画祭は子どもをテーマにした長編映画上映部門、子どもたち自身により製作された映画上映部門であるready-action(「よーい、スタート」といった意味)、子どもスタッフの参加もある短編映画部門、子どもをテーマにした短編アニメーション部門に加えて、映画作りの各種ワークショップや、子どもたちによるパーティなどのイベント、と盛りだくさんなプログラムである。上映作品は長編20本に短編46本の合計66本。

プログラミング・ディレクターのチ・ミヨンさん(写真右の女性)は「今回は本数を多くすることより、いい作品を選んだ」と語る。事務局長のキム・サンファさん(写真左)によると、総予算の三分の一を釜山市が負担し、残りは一般企業からの協賛金で賄っているとのことである。

ワークショップや映画祭のポスターは、子どもたちに広く絵画を募集。象をイメージしたロゴマークも公募。採用された子どもたち一人ひとりに開会式では檀上で賞状が授与された。

移民問題の映画でも活発な質疑応答
オープニング上映の“The Great Bear”(「大きな熊」CGアニメ/2011年/デンマーク/75分)、クロージング上映(7月21日朝も上映があった)の“The Ugly Ducking”(原作は『みにくいアヒルの子』/人形アニメ/2010年/ロシア/75分)ともに、脚本・技術ともにしっかりしていて大人が見ても十分見ごたえのある作品だった。“The Ugly Ducking”は、人形アニメの緻密な動きとクラシック音楽の活かし方に、ロシアンアニメーションの伝統を思わせる見事な出来栄えであった。いずれの作品も観客年齢の指標は8才以上と書かれていたが、後方座席から見ていて、子どもたちのアタマは画面を見つめたまま、横にグラっとも動いていなかったのが印象に残っている。

二日目に上映された韓国映画の“Farewell”(「さようなら」2011年/86分)は、現在の韓国で問題になっている中国朝鮮族の韓国への不法移民と滞在をテーマにした映画で、<12才以上>と指標されていたが、シビアな内容で、セリフも少なく、決して子ども向きとは思わなかったのだが、この作品もほぼ満席の子どもたちが、じっと画面に見入っていて、しかも終了後の質疑応答が活発なのに驚いた。自己表現が日常から身についているのだろう。

やはり二日目に上映された“The Dream of Sea”(「海の夢」(2012年/19分)では、終了後、ぞろぞろと手に人形を持った子どもたちが舞台に上がる。スタッフとして人形作りから参加した子どもたちだった。10人。監督はほとんど喋らず、子どもたち同士で質疑応答をしている。ここでも物おじしない姿勢にひたすら驚く。韓国人と親しく付き合ってほぼ25年。総じて高いパフォーマンス能力にいつも圧倒されたが、改めて日本と韓国の民族性の違いも実感し、羨ましいと思った。

子どもたちが企画運営のパーティ
二日目の夜のKids Filmmakers’ Night(子ども映画作家の夜)は、子供たちだけで企画運営したパーティで、レッド・カーペットを歩き、親も関係者も周りでじっと眺めるばかり。なぜか会場にはテントが張ってあるのでスタッフに尋ねると「子どもってテントが好きなんだろう」とのこと。手品の余興(手品師は大人)に、子どもたち自身によるポップなダンスを楽しみ夜の8時半に散会。こちらも活発そのもので男女ともにダンスに興じていた。ソウルの公園で、自然に踊りだすおじいさんやおばあさんの姿にダブるものがある。
また、二日目からは屋外に張られたテントでスタンプづくりなどのワークショップも行われ、受付や劇場案内、ワークショップ、あるいはゲストのアテンドなどには、80人近い男女のボランティアの若者が動き回っていた。ラフでありながら誠実に取り組む様に好感を持った。

短い滞在だったので、ready-action部門の作品やワークショップに参加できなかったが、恐らくどの会場でも活発だったことだろう。子どもの自主性を尊重し、大人は背後で創造力と想像力を育む助けをするという姿勢を貫いているようだ。韓国映画が質量ともに伸び続けている背景はここにもあるのだろう。

中野理惠(なかの りえ)
1987年スタートの映画製作・配給会社パンドラ代表
http://www.pan-dora.co.jp
ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督作品の配給が多い。The Future(原題/ミランダ・ジュライ監督)を来年早々公開予定。