「ピーター・パン」

映画と本をご紹介するコラム、第4回はオリンピック開催に湧くロンドンが舞台の「ピーター・パン」です。

「ピーター・パン」
矢本理子(Rico Yamoto)

7月27日から、ロンドンオリンピックが開幕しますね。今日は、ロンドンが登場する有名なファンタジー作品をご紹介しましょう。ジェームス・バリー原作の「ピーター・パン」です。
いつでも空を飛んで、好きな場所に行ける永遠の少年、ピーター・パン。この世に、彼を知らない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。ディズニーによって、1953年にアニメーション化もされたピーターをめぐる物語は、今でも、世界中の人々から愛されています。

ケンジントン公園のピーター・パン

ところで、皆さんはピーターのほんとうの年齢をご存知ですか? これはどうやら、解明することが難しい、永遠の謎のようなのです。一説によると生後7日目となっており、一説ではウェンディーとだいたい同じ歳ということになっています。なにせピーターは、生まれてから間もない赤ちゃんだった時に、家の窓から飛んで逃げ出してしまったものですから・・・。それからすでに、何年も、いや何十年もの月日が流れてしまったので、ピーター自身も正確なことを知らないのです。一つだけはっきりしているのは、まだ彼の歯が生え変わっていないということです。

それでは皆さんは、ピーターがなぜ家から逃げてしまったのか、その詳しい、いきさつをご存じですか? この質問の答えは、1953年に新潮文庫から出版された「ピーター・パン」という本に書かれています。この本はオリジナルタイトルを、「ケンジントン公園のピーター・パン」といいます。本国イギリスでの出版年は1906年。ロンドンで初めてのオリンピックが開催されたのが1908年でしたので、ピーター・パンという永遠の少年は、実は20世紀が生んだ、新しいキャラクターなのです。

この新潮文庫版の「ピーター・パン」によると、子どもはみんな、人間になるまえに小鳥だったそうです。だからピーターの他にも、家から逃げだそうとした赤ちゃんは沢山いたようです。でも他の子たちは、ピーターのように成功しませんでした。なぜだかピーターだけが、飛び方を思い出して、家から逃げ出すことが出来たのです。そこでピーターは、ケンジントン公園まで辿りつき、<サーペンタイン>という池の、真ん中にある島で、妖精たちや、賢い鳥ソロモンやその他の鳥たちと、一緒に住むことになりました。
実は、日本で出版されたピーター・パンの本は、違う内容のお話が、同じタイトルで出版されているため、少し、ややこしいことになっています。

皆さんがよくご存じのお話。ウェンディーと弟たちのジョンやマイケルが、ピーター・パンと、妖精ティンカー・ベルと共に<ネバーランド>へ飛んでいって、海賊フックと戦う冒険談。こちらのお話については、岩波少年文庫が1954年に出版した「ピーター・パン」に詳しく書かれています。この本のオリジナルタイトルは、「ピーター・パンとウェンディー」といい、イギリスでは1911年に出版されました。ディズニーのアニメーション「ピーター・パン」は、こちらの本が元になっていますね。
私は、今回あらためて、この映画を観てみました。原作の持ち味を生かしつつも、もっと愉快で楽しい作品に仕上がっていました。おそらく、ピーター・パンという名前を聞いて、皆さんがまっさきに思い浮かべるのは、このアニメーションに登場した少年の姿だろうと思います。原作のほうは、もう少し幻想的な雰囲気の作品ですので、アニメ版と原作とでは、ずいぶん異なる印象を受けるのです。

,エディンバラ

それでは、このピーター・パンをめぐる沢山のお話を書いた、ジェームス・バリーという人は、一体、どんな人物だったのでしょうか? 彼は1860年の5月に、スコットランド東部にあるキリミュアという町に生まれました。機織(はたおり)で有名な町で、彼のお父さんは機織の職人でした。お母さんは、やさしい、頭のいい人で、子どもの教育に熱心だったそうです。バリーは、1882年にエディンバラ大学を卒業したあと、はじめは新聞社で働きました。その後、作家となり、小説やお芝居を書きはじめました。実はピーター・パンという少年が、初めて登場するのは、彼が1902年に書いた「小さな白い鳥」という本なのだそうです。

ところで、ロンドンにあるケンジントン公園には、笛を吹きながら踊っているピーターの像があることを、ご存じですか? 私はまだこのピーターと会っていないので、次にロンドンへ行く際に、訪ねてみる予定です。もちろん、その時には、ピーターが妖精たちや鳥たちと住んでいたという<サーペンタイン>の池も、探してみようと思っています。

DVD・ブルーレイ「ピーター・パン」
(メーカー:ウォルト・ディスニー・スタジオ・ジャパン)
「小さな白い鳥」(ジェイムズ・M・バリ著、パロル舎、2003年)
「ピーター・パン」(原タイトル:ケンジントン公園のピーター・パン)(ジェームズ・バリー著、新潮文庫、1953年)
「ピーター・パン」(原タイトル:ピーター・パンとウェンディー)(J・M ・バリ作、岩波少年文庫、1954年)

矢本理子(Rico Yamoto)
東京うまれ、茨城県そだち。大学では社会学と歴史学を、大学院では西洋美術史を学ぶ。
1995年に岩波ホールへ入社。現在は宣伝を担当。

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