
毎月一回、映画の中に出てくる料理をテーマに料理を紹介するコラムの3回目です。
沖縄の食卓 ―『ホテル・ハイビスカス』より―
伊藤麻衣子 Maiko Ito

東京は梅雨の真っただ中ですが、私の住む東京の千駄木では最近よくハイビスカスの花をみかけます。花屋はもちろん、町のそこかしこに咲いているのです。ハイビスカスは沖縄では「あかばな」と呼ばれ、南国・沖縄を代表する花のひとつ。今月は夏本番を前に沖縄映画『ホテル・ハイビスカス』を紹介します。
『ホテル・ハイビスカス』の主人公・美恵子の家は、ホテル・ハイビスカスという名の民宿を営んでいます。父ちゃん、母ちゃん、黒人とのハーフのケンジにぃにぃ、白人とのハーフのサチコねぇねぇ、おばあ、そして美恵子の6人の大家族なので、なんと客室は一つしかありません。
小学校の帰り道、同級生の男の子二人を引き連れた美恵子は、キジムナー(精霊)に似た赤い髪の男が倒れるのを目撃。助けると見せかけて、お客さんにするために家に連れ帰ります。目を覚ました男に「1泊4000円のところ、沖縄料理付きで3000円!」と母ちゃんの決め台詞!
その夜の食卓にはたくさんの沖縄料理が並びます。クーブイリチー、ソーミンチャンプルー、ゴーヤチャンプルー、山盛りの天ぷら、足てびちぃなど、盛りだくさんの料理が、次々と登場します。今月はその中から、今や全国的にスタンダードな夏の献立になったゴーヤチャンプルーを作ります。


ゴーヤを縦半分に切り、中の種とわたを取り除きます。

ゴーヤを1cmくらいの厚みに切ります。苦いのが苦手な方はもう少し薄く切るか、塩を入れた水につけて少し置いておくと苦みが軽減されます(私は苦いのが好きなのでそのままで)。

水を切った豆腐を好みの大きさに切って油でいためます。両面に焦げ目がついたらよけておきます。

混ぜた卵も半熟に炒めてよけておきます。

油を入れてゴーヤを炒めます。少ししんなりしてきたら、細く切ったランチョンミートを加えて炒め合わせます。

豆腐を加えて、だし汁、泡盛(酒でも可)、塩、胡椒などで味付けして、卵を加えてひと混ぜ。皿に盛りつけて鰹節をかければ完成です。

沖縄料理は大人数で食べるとより楽しくなるので、今日は近所の友人を6人誘って食卓を囲みました。ゴーヤチャンプルーの他にも、ラフテー、クーブイリチー、人参しりしり、ゴーヤと島らっきょう、丸オクラの天ぷら、ジーマミー豆腐、ゆし豆腐の汁もの、トウモロコシなどで賑やかに。


今日の主役は2歳になる海ちゃん。『ホテル・ハイビスカス』の美恵子におかっぱ頭の髪型がちょっと似ています。料理に喜ぶ笑顔の海ちゃんを撮る予定でしたが、海ちゃんは食べることにとにかく真剣。トウモロコシの粒を眉間にしわを寄せながら取り、お母さんにゴーヤチャンプルーを食べさせてもらっている海ちゃんの目は、次に食べるものを探しています。ラフテーが大のお気に入りでした。
お盆の夜、美恵子は自分とそっくりのおかっぱ頭の少女、多恵子に出会います。二人は真っ赤なハイビスカスの花を武器にチャンバラを始めます。でも花で戦っても戦いにはならず、もちろん戦争にもなりません。お互いの髪にそっと花をつけあって別れます。私のお気に入りのシーンです。
『ホテル・ハイビスカス』はお転婆・美恵子のひと夏の冒険が描かれるとても楽しい映画で、沖縄の方言があふれ、都会にいると忘れてしまいがちなお盆の風習や、キジムナーの存在を感じることができます。しかしそれだけではなく、戦争が沖縄にもたらした多くのものに気づきます。沖縄戦で犠牲になったたくさんの人々、亡くなった人への想いを胸に生きている人々、そして今も残るアメリカ軍の基地問題。夏休みにむけて子供たちが戦争について、少し意識するよい機会にもなると思います。
ちなみに美恵子の兄・ケンジにぃにぃは、母ちゃんとアメリカの黒人兵士と間にできた子供ですが、今やEXILEの一員になったネスミスが演じています。豆知識でした。

「ホテル・ハイビスカス」
販売元:バンダイビジュアル
©2002「ホテル・ハイビスカス」パートナーズ
伊藤麻衣子(Maiko Ito)
福島県白河生まれ。4人兄弟、男兄弟にかこまれて育つ。
今は映画などの宣伝と、沖縄の器の営業を生業に。料理上手の母を見て育ったので、気づけば料理が趣味に。今回はこのコラムで映画、器、料理と自分の好きなものをどう形にできるかが楽しみです。
美味日和~谷根千暮らし~