
映画仕事図鑑の第2回目は、アニメーション監督の山村浩二さんにお話を伺いました。
2回に分けてご紹介いたします。第1回は山村さんがアニメーション監督になろうと思われたきっかけや、影響を受けた監督たちについて伺います。第2回目は山村さんのアニメーション制作過程についてお話いただきます。
山村浩二 アニメーション監督
1964年生まれ。東京造形大学卒業。90年代「カロとピヨブプト」「パクシ」など子どものためのアニメーションを多彩な技法で制作。2002年「頭山」が第75回アカデミー賞にノミネートされる。これまで国際的な受賞は70を越える。2010年文化交流使としてカナダで活動。 2011年カナダ国立映画制作庁との共同制作で「マイブリッジの糸」が完成。「くだものだもの」「おやおや、おやさい」(共に福音館書店)など絵本画家、イラストレーターとしても活躍。ヤマムラアニメーション有限会社代表取締役、東京造形大学客員教授、東京藝術大学大学院映像研究科教授。http://www.yamamura-animation.jp

「頭山」
Q:山村さんとアニメーションの出会いについて教えてください。
山村:高校生1年の時に、NFB(カナダ国立映画制作庁)の作品を何本か美術の先生が見せてくれたのが興味を持つきっかけでした。TVや日本のアニメーションだけでは出会えない「こんなアニメーションが世界にあるんだ!」と衝撃を受けました。
その中の1本が、ノーマン・マクラーレンの「隣人」という作品で、もう1本は、ジャック・ドゥルーアンの「心象風景」でした。自分にとって最初に影響を受けた作品のひとつなので、「マイブリッジの糸」と劇場公開の時に併映しました。それまで、漫画は好きでいろんなものを読んだり、自分でも書いていて、漫画家になりたいと思っていましたが、TVで見るアニメーションは、原作の魅力を十分伝えていないのではないかと子どもながら思っていて、あまりいい印象を持っていませんでした。

「心象風景」
アニメーション作家になりたいと初めて思ったのは、大学生の時に、第1回広島国際アニメーションフェスティバル(85年)で、インドのイシュ・パテルさんの作品を見たときです。彼は作品ごとに違った手法で作っているのですが、そこには一貫した美学があって「こういう人になりたい」と思いました。
Q:映画にも興味はおありだったのですか?
山村:子どものころから映画は好きで見ていたのですが、大学に入ってからは授業に出るよりも、映画館にいりびたったりしていました(笑)。大学は絵画科に入ってから、「なぜ自分は絵を描くのか」「自分の表現とはなにか」というようなことを考えさせられたのですが、絵を描くことと、好きな映像というものが、広島で出会った作品によって、はじめて結びついたという感じです。
アニメーション自体は13歳のときから、8ミリフィルムで作っていたのですが、それは子どもの遊びのようなもので、自分の情熱を傾けて取り組む生涯の仕事として意識したのはパテルさんの作品を見てからですね。
Q:山村さんの子ども時代の映画の思い出をお聞かせください。
山村:近くに3番館という感じの、なんでもかけている映画館があって、そこに一人でよく見に行っていました。寅さん、大魔神、ゴジラと雑多なものを見る楽しさがありました。お小遣いを、漫画と映画に全部つぎ込んでいて親に怒られていました(笑)。
印象に残っているのは3年生の頃に、はじめて映画館でみた、キングギドラの出ているゴジラものだったと思うのですが、ゴジラの歯が濡れていて、その質感というか、生々しさがすごくて、ゾクゾクしました。それはTVでは感じることのできないもので、ストーリーとかキャラクターではなくて、ディテールが語る部分の豊かさにひかれるという原体験だったのではないかと思います。

「カロとピヨブプト」
Q:子どもに映画を見せることについて、アドバイスをお願いします。
どんな作品を見せればいいかというのは、非常に選ぶのが難しいです。自分と子どもの興味がどう違うかというのも関係しますから、親に連れていかれるというのが、必ずしも楽しい経験といえるかどうかわかりません。特に今の子どもたちは、メディアが多すぎるし、映画は値段も高いので、映画館で映画を見るというのは、よほど好きでないと難しいものがありますね。
ただ、自分の経験から言うと、親が見てすごく良かったと話してくれた作品は、子どもも興味をもつものです。僕の父は映画好きというのではありませんでしたが、「パピヨン」や「ベン・ハー」のことを熱心に話していて、後にTVで見て、心に残っている作品です。
教育的にどうかとか変に気にするよりも、親が楽しんだ映画の感想を、子どもに素直に伝えるというのが一番いいのではないでしょうか。(聞き手:工藤雅子)
「マイブリッジの糸 山村浩二とNFB作品」展
埼玉県にあるSKIPシティで、7月22日まで行われています。
(c)Yamamura Animation