父と息子のフレンチ・トースト

映画の中に出てくる料理をテーマにご紹介するコラムの2回目。

父と息子のフレンチ・トースト ―『クレイマー、クレイマー』より―
伊藤麻衣子 (Maiko Ito)

子供の頃、よく母が映画に連れて行ってくれました。映画の中で初めて異国に憧れたのが、『クレイマー、クレイマー』のチョコチップの入ったアイスクリームとフレンチ・トースト。「あれはなに?」と小学生の私は大興奮。家に帰って母にフレンチ・トーストをおねだりしたのは言うまでもありません。

今回、久しぶりに『クレイマー、クレイマー』を見直したのですが、小学生の私にはきっと理解できていなかった人生の苦さも、愛しさもたくさん詰まった映画であると改めて実感。冒頭の別れを決意した妻ジョアンナ(メリル・ストリープ)の横顔の美しいことと言ったら。

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妻が「あなたと別れるわ」と出て行ってしまい迎えた朝、夫テッド(ダスティン・ホフマン)はきっと結婚して初めてであろう朝食を作ります。息子ビリーが食べたいと言うのはフレンチ・トースト。作り方もろくにわからず、マグカップに卵を溶いたものの殻は入るし、すぐに食パンをひたしてしまい、息子に「牛乳を入れてないよ」と突っ込まれる始末。

結局、焼き始めたものの、鉄のフライパンの取っ手を素手で触り、その熱さにフライパンを投げてしまい、フレンチ・トーストは出来ずじまい。息子の戸惑った顔があるのみ。母が出て行ってしまったことを理解できないビリー。さびしくて泣いたり、父親の迎えが遅くてぶすくれたり…。しかし、父と二人で暮らすうちに少しずつですが、成長していきます。

そんな中で印象的に出てくるのが、朝食です。出来上がらなかったフレンチ・トーストの後は、買っておいたドーナツをビリーが準備して会話もなく食べます。仕事の虫で出世のために家庭をかえりみずに生きてきた父。初めて息子と向き合い、自転車の乗り方をおしえ、大ケガを負った息子を必死で病院に運び、がむしゃらに子育てに挑みます。親権を争う裁判でもどうにか息子と二人の生活を続けようと闘います。

そのうちに父と息子にはかけがえのない絆が生まれていくのです。そして、別れた妻がジミーを引き取りにくる日、二人はまたフレンチ・トーストを作るのです。手際よい見事な連携プレーで。


卵と牛乳

ボールに卵をとき、牛乳をくわえて混ぜ合わせます。映画では入れていないようですが、ここで少し砂糖を入れてよくかき混ぜます。卵2個に牛乳1カップが目安です。砂糖の量はお好みで。

そして食パンを浸します。食パンの中にも卵液が浸透するように、少し時間をおくと美味しくなります。つけすぎるとパンが崩れてしまうので注意しましょう。


ひたしたパンとフライパン

バターを溶かしたフライパンで焼きます。中火くらいで少し焼き目をつけたら裏返し。
すぐ焦げるので目をはなさないように。鉄のフライパンの時は、くれぐれも取っ手でヤケドをしないように!

きっとママが作ってくれたフレンチ・トーストにはメイプルシロップやはちみつが付いていたのでしょう。もしかすると香りづけにバニラエッセンスが入っていたかも。でも今回は男の料理なのでシンプルに。
ただ、フレンチ・トーストだけですと栄養のバランスが良くないので、今回はミニトマトとアスパラを添えました。ピクルスでもよいですね。


フレンチ・トースト

パンの厚さや数はお好みで調整を。今回は8枚切りのパンで父は2枚、息子は1枚ですが、食べ盛りのお子さんなら6枚切りが良いかもしれません。

先日、日曜の昼すぎに長兄と小学3年生の甥っ子がふらっと遊びに来ました。上野の森で美術鑑賞の後に立ち寄ってくれたのですが、妻と娘とは別に父と息子で散歩だなんて、なかなかしゃれています。べたっと仲良しなわけでもないのに絆を感じる男同士の関係とでも言いましょうか。母と娘ではこうはいかないものです。

今回は母親不在の食卓でしたが、週末にでも父と息子が家族のためにフレンチ・トーストを焼くというのも素敵なのでは? 映画の中では驚きのコーヒーの入れ方をしていましたが、そんな時はゆったりとした気持ちでコーヒーをドリップして味わいたいものです。美味しさが違います。


珈琲

日本で『クレイマー、クレイマー』が公開になったのは1980年。6歳の私がこの映画を見たことになります。
母はきっと自分が見たかっただけと思いますが、小学1年生ですからおませさんというか、なんというか。それでもずっと心に残っていたので、きっと6歳の私なりに感じるものがたくさんあったのでしょう。

伊藤麻衣子(Maiko Ito)
福島県白河生まれ。4人兄弟、男兄弟にかこまれて育つ。
今は映画などの宣伝と、沖縄の器の営業を生業に。料理上手の母を見て育ったので、気づけば料理が趣味に。今回はこのコラムで映画、器、料理と自分の好きなものをどう形にできるかが楽しみです。
美味日和~谷根千暮らし~