外出が難しい今年の年始。おうちで楽しむ映画をパパママ・ジャーナリスト4名の方にご紹介いただきます。最終回は映画評論家の金原由佳さん。
『ぼくらと遊ぼう ブジェチスラフ・ポヤル』
私は0歳児から保育園に子供を通わせたのですが、昨日、お父さん役をしていた子が翌日は赤ちゃん役になっていたり、元気で威勢のいい子が翌日にはめそめそモードになってみんなに慰められていたり、日々、こどもたちのテンションと役割が何かのきっかけで即座に入れ替わっていくのが見ていて面白く、素敵だなと思っていました。
ところが、大人が作るアニメーションはわかりやすさから、キャラクター設定が固定されているものが多い。そんなとき、チェコアニメの大家であるブジェチスラフ・ポヤルさんのこの「ぼくらと遊ぼう」シリーズを見てびっくり。大きなクマと、小さなクマが次々といろんなごっこ遊びをするのですが、強い方が弱くなったり、騙している方が騙されたり、コロコロ、彼らのポジションが変わっていくのです。そもそも大きなクマと小さなクマも、望遠鏡になったり、メジャーになったりと、自在に自分の姿を変えて、いろんなあそびをしていきます。動きがユニークなのでチェコ語なんてわからなくても大丈夫。我が家では動きに合わせて、適当にこどもと吹き替えをして笑いあっていました。家に転がっている粘土や毛糸で、自分たちのクマを作ってまねっこをしても楽しいです。
ポヤルさんをきっかけに、イジー・トルンカさんや「もぐらのクルテク」のズデニェック・ミレルさん、アート色の強いヤン・シュヴァンクマイエルさんなど、多彩なチェコアニメの沼にずぶずぶとはまるのも楽しいです。
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『僕は猟師になった』
京都の街中からそんなに離れていない山の麓に暮らす千松さん一家のお父さんは猟師。家の背後に広がる山に入り、くくりわなという仕掛けによってイノシシやシカを捕獲しています。このドキュメンタリーが撮影されている時、お子さん二人は小学校に上がる前でしたが、すでに自分専用のプティナイフを与えられ、一家総出の解体作業では、きれいに肉をそぎ落とし、自分たちの口に入れる肉がどういう工程を経て食卓に上がるか、自然に学んでいる姿に大いに刺激を受けました。千松さん一家は動物の命を無駄にすることなく、脂から軟膏を作ったりするなど自然の恵みを最大限に利用しています。
日本の森や山は今、狼がいなくなったことでシカが増加し、害獣として大量に廃棄処分をされている現実も紹介されます。シカが食草を食い荒らすことで、日本の森は生態系が大きく崩れており、都会に暮らす人たちもいずれその影響を受けることになります。千松さんはこども向けの本も出されているので、家族で食べること、森のことを考えてみてはどうでしょう?
『ブレッドウィナー』
国際情勢や政情の動きに子どもが巻き込まれるのは大人の責任ですが、この映画では、アフガニスタンがタリバン政権に代わったことで、短期間のうちに女性の自由が奪われていく様子を見せます。女性ということだけで学校に行けなくなり、人前で顔を見せることを禁じられ、果てには一人での外出も禁止になってしまう。父親が刑務所に入れられたことで、食糧の買い出しに出かける男手がなくなった主人公の家族では、11歳のパヴァーナという少女が髪を切り、母や姉、弟のために少年として外の世界で労働をすることを決意します。
少女であることが周囲にわかるとどんな恐ろしい事態になるのかわからない。それでも彼女は男の子の扮装で労働に励み、同じような状況の友達と支えあう。原作はカナダの児童文学作家デボラ・エリスが数多くの取材を重ねて書いた小説「生きのびるために」。これを『ブレンダンとケルズの秘密』のノラ・トゥーミー監督が映画化したもの。日本でも他人事ではなく、政治が自分たちの生活に大きな関わり合いがあることなど、家族で話し合うのに向く一本だと思います。
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『大コメ騒動』
ちょうど今から100年ほど前。たった3か月の間にお米の値段が2倍以上も値上がりした時期がありました。ところが働く賃金は全く上がらない。これでは家族が飢えてしまう。なんでこんなことになるんだ!と、富山の漁師町で働く女たちが怒りを抱えて、米を適正な価格で売るようにと立ち上がった行動が、やがて日本中に広がり、時の寺内内閣を総辞職に追い込んだのは有名な話。
この大正7(1918)年の夏に沸き起こった富山の米騒動をユーモラスに描いたのがこの作品。教科書では数行の説明程度ですが、そこに至るまでには様々な人間模様があることがとてもよくわかります。中高大の受験でも「なぜ米騒動が起きたのか、当時の日本の状況を説明しなさい」とよく取り上げられるテーマなので、面白く勉強したいお子さんにぜひ!
監督の本木克英は『超高速!参勤交代』『超高速!参勤交代 リターンズ』で、福島県いわき市内に実在した石高一万という弱小の湯長谷藩を題材に、地方史の事情を面白く描いた達人。中央とは違う目線で見る歴史の面白さをよく知る人です。
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