アニメーテッドラーニングってなんですか?

写真提供:間崎真由子

アニメで楽しみながら成績がよくなる? そんな夢のような授業がデンマークで行われています。現地で取材をされた、「かながわリテラシー研究所」メンバーの有吉末充さんに2回にわたってレポートをしていただきます。

小学校の授業にアニメ?

アニメーテッドラーニングは世界各地で導入が進む、新しい教育・学習の方法で、デンマークはその先進地です。従来型の教育では、教科書に書いてある知識を先生が講義して、子どもはそれを記憶するという言語(文字や言葉)中心の授業が行われていましたが、アニメーテッドラーニングでは、学習内容を理解したり、子どもが考えたことを表現するツールとしてアニメーションなどのビジュアル表現を活用します。

どのように授業が行われるのか見てみましょう。まずデンマークの小学校の例です。
“Create and Communicate” (創造とコミュニケーション)”という授業ですが、「親切・優しくするって?」というテーマで次のように授業が行われました。授業にかけた時間はまる1日です。(注1)

1 一人一人の生徒が粘土(クレイ)でアニメーションのキャラクターをつくります。
2 「優しさ」をどう考えるか児童に考えさせ、意見を求めます。
3 4-5人のグループに班分けします。
4 どのキャラクターを主人公にするかを決め、他のキャラクターとの関わり方で
優しさを表現するよう教師が指示がします。
5 物語を考え絵コンテを作成します。
6 絵コンテができたら教師に伝え、撮影の準備をします。この後はアニメーショ
ンの撮影です。午前中でここまですすみ、午後はアニメーションの撮影です。

写真提供:増田弘道

このクラスの生徒は10-11才で、人数は20人弱、担任の教師の他にアニメーテッドラーニングラボ(※2回目の記事で詳述します)から派遣された講師がつくチームティーチングで授業は進みます。この授業の場合、テーマは決められていますが、そのテーマをどのように具体的に表現するかは生徒が考えます。それをどのキャラクターを使ってどのような物語にするのかも生徒が考え、話し合って決めていきます。

(注1)この授業の事例は間崎真由子さんのNordre Skole(Nordre小学校)見学レポートに基づいています。

高校の授業もアニメで楽しく

デンマークではアニメーテッドラーニングなどのビジュアル表現を普通科教育に取り入れた高校、ビジュアルHF(VISUEL HF)も設立されており(注2)、その生徒が作った作品も見せてもらいました。

私が見て感心した作品は、地学で学んだ、変成岩ができる過程を、地中の岩石に圧力や熱を擬人化したキャラクターが力を加えて変化させる様子として表現したもので、授業内容の理解と、その内容を他の人にわかりやすく伝える手段としてアニメーションを作ることが有効であることがよくわかります。この手法を学んだ生徒は、将来表現の分野に進まなくても、仕事のプレゼンなどにこれを活かすことができるでしょう。ビジュアルHFは、成績や大学進学率において他の高校(HF)と比べて優れた成果を挙げていると報告されています。

高校生の作品。VISUEL HFのサイトから

VISUEL HF http://www.visuelhf.dk/
(注2)デンマークでは高校は大学進学校と職業学校とに分かれますが、HFはギムナジウムなどと同じく大学進学のための普通科高校です。

アニメーテッドラーニングの効果とは?

自分が得た知識、自分の考えをアニメーション化して人に伝えていくために、子どもは自分の考えを整理し、必要な情報を得るためにリサーチ(情報探索)し、それを批判的に考察し(クリティカルシンキング)、仲間と協働(コラボレーション)していかなくてはなりません。制作の全過程を通じて、指導者や他の子どもとの積極的なコミュニケーション(意見交換)も必要になります。

これらは全て「学習における21世紀型スキル」の重要な要素です。そして、作品を作り上げるという行為は子どもに大きな達成感を与え、その満足感は自己肯定感を生み出し、次の学習への意欲を駆り立てます。それは教える側にとっても大きな達成感を生みだします。アニメーテッドラーニングではビジュアル表現を学習のツール
に取り入れることによって、楽しみながら学ぶことが可能となり、学習への積極性が維持され、新しい事柄や他者への理解力を高められるのです。

また、アニメーテッドラーニングには、子どもが身体を使って考え、プロジェクトを実行していく体験型学習としての意味もあります。自分たちが作ったキャラクターに自分たちの手で動きをつけていく。そのキャラクターが画面の中で生命を得たかのように動き出すことの驚きと喜び、これは受け身型の学習では決して味わうことができないものです。

さらに、視覚情報を学習のツールに用いることによって、文字情報にうまく対応できない子どもの学習に効果を上げることが期待できます。デンマークでは学習障害の子どもや、新しい母語の習得ができていない移民の子どもの教育にも大きな効果を上げているとのことです。今後は、これまでの授業でとりこぼされていた、文字を取り扱うのは苦手でもビジュアルな情報処理を得意とする子どもの才能の発掘も期待できるのではないでしょうか。

デンマークではアニメーテッドラーニングを一般の学習に取り入れることが徐々に進んでおり、アニメーテッドラーニングを学習に取り入れた小・中学校では、児童・生徒の映像の理解力と、ビジュアルな表現力の発達に著しい効果が上がっており、また、「読解力とアニメーション」のプログラムに参加した 児童・生徒の読解力に著しい進歩が見られるそうです。(次回につづく)

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