こども映画図書館「パディントン」

「パディントン」
矢本理子(Rico Yamoto)

皆さんは“パディントン”と聞いて、何を真っ先に思い浮かべますか? もし、ロンドンの鉄道の駅を思い浮かべるのならば、その方はきっと旅好きな人でしょう。それとも、青いダッフルコートに、風変わりな帽子をかぶり、片手に古ぼけたスーツケースを握りしめている、小さなくまの姿を思い浮かべるのならば、その方はきっと、子どもの頃に『くまのパディントン』シリーズに夢中になった、本好きな人に違いありません。

現在、このパディントンが登場する、イギリス映画「パディントン」が公開されています。物語の主人公は、暗黒の地ペルーから、たった独りで救命ボートに乗ってイギリスに密航してきた、珍しい種のくまです。彼は小さい頃から、ルーシーおばさんに、英語と英国紳士の振る舞いを仕込まれていました。ようやく辿り着いたロンドンの大きな鉄道の駅では、誰もが忙しすぎて、彼の存在に気がつきません。たった一人、ブラウン家の奥さんだけが、駅のホームの片隅にいた小さいくまに注意をはらってくれたのです。その日から、親切なブラウン家に泊めてもらうことになったくまは、彼らが出会った駅の名前から、“パディントン”と名付けられました。

ペルーの森で生まれ育ったパディントンにとって、ロンドンでの生活は、目新しいことばかり。お風呂で洪水を起こして、あやうく溺れそうになったり、お財布を落とした人を追いかけていたはずなのに、何故だかスリを捕まえてしまったり…と、行く先々で様ざまなトラブルに見舞われます。でもこれは、仕方のないことなのです。何故ならパディントンは、生まれつき、何らかの事件に合いやすいタチのくまなんです・・・。

映画版は、原作とは異なるオリジナルストーリーに仕上がっていました。それにしても、映画のパディントンは、リアルな毛並みの子ぐまで、実に存在感がありました。原作に時おり出てくる、パディントンお得意の、取っておきのにらみ顔も披露しています。ブラウン一家の個性的な面々や、皮肉屋ですが決して悪人ではない隣人のカリー氏も、みんな魅力的です。物語の舞台であるロンドンの町が、ポップでカラフルに描かれている点も新鮮です。そして、映画に登場する、パディントンを執拗に追う謎の美女ミリセントとは、いったい何者なのでしょうか・・・? 皆さんも是非、パディントンの八面六臂の活躍ぶりを、映画館で確かめてみて下さい。

くまのパディントン (世界傑作童話シリーズ―パディントンの本)

もしこれまでに、「パディントン」の原作を読んでいない方がいらっしゃいましたら、この機会に挑戦してみるのは、如何でしょうか? 本国で1958年に出版された『くまのパディントン』は、瞬く間にイギリスの子どもたちの心を掴み、40カ国語以上に翻訳され、世界中で3500万部も売り上げた、大ロングセラーです。日本では、1967年に、松岡享子さんの翻訳で『くまのパディントン』が刊行され、以降、2009年の『パディントンの大切な家族』まで、10巻のシリーズ本が、福音館書店から出版されています。私が子どもの頃は、『くまのパディントン』から『パディントンの煙突掃除』までの6冊が翻訳されていました。全10巻におよぶ原作シリーズには、映画よりもさらに抱腹絶倒な冒険談が満載です。根が真面目で正直もののパディントンは、誤解やちょっとした勘違いから色んなトラブルを引き起こしますが、どんなに困った状況に陥っても、けっして諦めず、上手いこと窮地を切り抜けてしまうのです。とにかく、天真爛漫なパディントンの活躍ぶりが可笑しくて、何度も何度も、このシリーズを読み返したものです。

小学生の時に買った、小さい人形とバッチを、実家で発掘してきました。
ボロボロになっていますが、本当に子どもの時から
パディントンが大好きだったのです。

今回、パディントン・シリーズの最後の3冊を、松岡さんと共訳した田中琢治さんについて、面白いエピソードを知りました。田中さんは小学2年生の時に『くまのパディントン』を読んで、すっかり魅了されてしまったそうです。そして1970年に、「いそいで・・・パディントンをやくしてください。・・・はやくあと7さつともやくしてください。・・・はやくはやくやくしてください。」という、可愛らしい感想文を送ったことで、松岡享子さんとの間に交流が生まれたそうです。その後、科学者の道に進んだのですが、今度は田中さんご自身が、30数年を経て、パディントンの本を翻訳することになったのです。とても素敵なお話だと思いませんか?

私がパディントンと出会ったのは、小学3年生の時でした。以後、現在にいたっても、時おり、本棚から取り出しては、彼の冒険談を楽しんでいます。楽しい映画「パディントン」をきっかけとして、パディントンの世界を愛する読者が一人でも増えてくれることを、心より願っています。

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