動物行動学者に聞く!見て学べる「シーズンズ 2万年の地球旅行」の魅力

見て学べる『シーズンズ 2万年の地球旅行』の魅力
日本語版監修・動物行動学者・新宅広二さんに聞きました!

2016年1月15日に世界に先駆けて日本で公開された映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』。2万年前の氷河期から現在までの地球の歩みを春夏秋冬の四季になぞらえ、動物の目線から描いたネイチャー・ドキュメンタリーです。
動物行動学の専門家で、これまでに300以上の国内外の科学番組、映画の企画・監修を手掛け、本作でも日本語版の監修を務めた新宅広二先生に、映画の見どころ、親子でこの映画を楽しむポイントについてうかがってきました。

この映画は、観終ったあとにも、子供とたくさん話ができる映画だと思います。観る前に大人が注目しておいた方がいいポイントを教えてください

一番の特徴は、元々はナレーションがついてないということ。最近のフランスでは、ネイチャー・ドキュメンタリーにナレーションをつけないのが主流です。説明せず、ただ映像を観て感じて欲しい、と。日本と教育環境の異なるフランスでは「感じる」ことに重きを置いています。そうはいっても日本では、動物の名前やシーンの説明が全くないと「この動物の名前は何?」「この動物は今何をしているんだろう」とモヤモヤしてしまうわけですよ(笑)。だから今回私が「このシーンには、こういう意味がある」ということがわかるように日本語版のナレーションをつけることになりました。ただし「難しい専門用語を使わない」ということを心がけました。

今までのネイチャー・ドキュメンタリーとはずいぶん違うとのことですが?

今までのネイチャー・ドキュメンタリーは、“めったに見られない海の底”や“アマゾンなどの秘境”“絶滅危惧種などの希少動物”“誰も見たことのない非常に珍しい生態”など、初めてこの瞬間をカメラに収めました、ということを最大のウリにしている映像が主流でした。でもこの『シーズンズ』で登場するのは、一見誰もがよく知る動物ばかり。

ウマやシカ、リスやオオカミなど、子どもでも名前がわかる動物がたくさん登場しますね

そうなんです。例えば「ヨーロッパヤマネ」という動物が登場しますが、「ヤマネ」は日本にもいます。だからナレーションでは「ヤマネ」という表記にして日本に生息する身近な動物と結び付けやすくなるように、ということも考えながら監修させていただきました。でも「誰もが知っている動物ばかり」を映像にする、実はこれは専門家から見てもすごいことなんですよ。よほど映像に自信がなければできないことです。動物行動学の研究者レベルでも相当面白い映像がたくさんあります

専門家が見てすごいとは、どんなシーンですか?

例えば、オオカミとイヌのシーンが、進化的に比較できるように同じ目線で撮影されていることです。イヌがシカを追いかけて「チームプレイで狩りをする」というシーンは、オオカミが馬や牛の狩りをするシーンと同じアングルで撮影されています。集団で狩りをするときのフォーメーションやリーダーの役割が同じ。それを見ると2万年前に野生だったオオカミの血をひいているのがイヌなんだということが説明されなくても感覚的にわかるようになっているんです。渡り鳥がアヒルやガチョウなどの家禽になっていく過程が、自然に比較できるような作りになっています。私たちの身近にいる動物が、いかに人間のパートナーになっていったか、という過程が描かれるのは、ネイチャー・ドキュメンタリーとしては新しい試みですね。
ちなみにこの「シーズンズ」というタイトル、意味はわかります?

タイトルの「シーズンズ」は、「季節」という意味ではないんですか?

ここが一番の誤解でして(笑) タイトルを見て春夏秋冬の〝1年間〟の動物の生態を撮影したドキュメンタリーだと思う方がほとんどだと思いますが、実は違うんです。
2万年前から現代までの人間と動物の付き合い方を季節に例えているんです。例えば環境破壊や動物を乱獲した時代を、監督は「冬」と表現しています。でも季節は繰り返しやってきます。「厳しい冬の時代の後には必ず春がやってくる」という終わり方をしている。これは人と動物の関係に希望を持たせる非常にポジティブな発想です。ここはぜひ親子で、特に小学生以上のお子さんと話し合うポイントにしていただきたいですね。

環境教育にもよさそうですね

フランスなどヨーロッパ、アメリカの環境教育は進んでいて、20年以上前に“エコブーム”“環境教育ブーム”が起こり、子どもに人間がどれだけ環境によくないことをしてきたか、ということをたくさん教えてきたんですよね。ところがアメリカでは「子供に“人間が悪い”ということを教え続けると、人間そのものを嫌いになってしまうのではないか」と発想を転換したのです。

海外の環境教育、親としては非常に気になります

「大人がこんなに環境に悪いことをしてきた」ということを教えて、その結果を子供に押し付けるのではなく(笑)、子供たちが未来に希望を持てる、自分たちも何かできるのではないいか、という気持ちにさせる。その最先端の環境教育を具現化したのが、この映画と言えます。

映画を観るだけで親子一緒に環境教育に触れられるのはいいですね

実は監督のジャック・ペランは、スタジオジブリの宮崎駿作品のファンで、随所にオマージュが感じられるシーンが盛り込まれている。日本の「里山」というキーワードをとても大事にしているんです。
「里山」は日本独自の考え方です。人が住む「人里」と、動物が住む「奥山」、その緩衝地帯が「里山」。動物と人間の接点としての緩衝地帯を設ける、というのが日本古来の考え方なんです。人間は適当に狩りもしますが、動物たちの自然環境もそのまま残す「里山」を作ることで、人間と動物がうまく共存できるんじゃないかという。この「里山」という概念は、世界的に見直されているんです。

日本の「里山」という概念が見直されているのはとてもいいことですね。身近な話題に関連づけて親子でたくさん話ができます

「勉強しなさい!」と強制したり、説教臭くならず「へえ~面白い!」って言いながら、世界観や動物観、人の歴史などが総合的に感覚的に見につく、世界の環境教育の最先端の教材だと思います。

お話を聞いて、もう一度子供と一緒に観たくなりました

ぜひ映画館で観てほしいです。ネイチャー・ドキュメンタリーは、絶対スクリーンで観た方がいい。もともと映画館のスクリーンで観るために作られていますから、迫力が全然違います。

映画は、机の上のお勉強では得られない、感性で学べる良さがあります

動物って「動く物」って書きますよね。動いてなんぼ。活字では伝わらないことがたくさんあります。動物の生態を学ぶのは映像が一番。何度読んでもピンと来なくても、映像で見たら一発でわかることがたくさんあります。これからは知識じゃなく「感じる」教育がますます必要になってきます。この映画は「感じる」教育にピッタリなので、ぜひ映画館に足を運んでいただきたいですね。子どもは500円と安いですし(笑)。

先に知っておくと、視点が広がり映画が更に深く楽しめるお話をたくさん聞かせていただきました。ありがとうございました!

映画公式HP

親ゴコロポイント
中1、小3の娘たちは動物が大好き。私=親はつい「この映画のメッセージは?」などと深堀りしたくなりますが、子供たちは素直に「カワイイ!」「すごい!」を連発、夢中で観ていました。中1の長女は「確かあの本にオオカミの習性が載っていたはず」と、本を探し出し、いろいろ説明してくれました。子どもの好奇心をグイグイ引き出してくれる映画です。オオヤマネコなど動物の子育てシーンも満載!

新宅先生に『シーズンズ 2万年の地球旅行』をもっと楽しむためのオススメ本を教えてもらいました。

牛をかぶったカメラマン―キーアトン兄弟の物語
■『牛をかぶったカメラマン キーアトン兄弟の物語』
(光村教育図書) 著者:レベッカ・ボンド

世界のネイチャー・ドキュメンタリーの巨匠たちに大きな影響を与えた動物カメラマン・キーアトン兄弟の実話絵本。映画のような映像をどんな思いで撮っているかが、よくわかります。絵もかわいい。

植物の私生活
■『植物の私生活』(山と溪谷社) 著者:デービッド・アッテンボロー
ネイチャー・ドキュメンタリーの巨匠D.アッテンボローの本で、英国BBCの人気番組「The Private Life of Plants」のブック版。植物をまるで動物のような視点で生活史をまとめたもので、生きものの新しい見方を教わることができます。

シートン動物誌〈4〉グリズリーの知性
■『シートン動物誌』全12巻 (紀伊国屋書店)
世界中の子供たちに愛された『シートン動物記』を、新たに大人向けに学術寄りで編纂したもの。図鑑ではわからない“動物像”をつかめるだけでなく、時代や文化も知る事ができます。ネイチャー・ドキュメンタリーを深く楽しむ定番ツールとしてオススメ。

鳥はなぜ歌う
■『鳥はなぜ歌う』(新思索社) 著者:ジャック・ドラマン
映画『シーズンズ』の終盤の戦争シーンで、最前線での激戦中に鳥に魅了されるフランスの鳥類学者ジャック・ドラマンがでてくるのですが、彼の著書です。文章も内容も鳥を観察する視点も素敵なすばらしい作品です。

すごい動物学
■ 『すごい動物学』(永岡書店) 著者:新宅広二
私たちは動物との関わり合いが多いわりには、学校で『動物』を学ぶ機会がありません。多くの誤解や知らないことも多い。そこで、様々な動物のすごい生態や意外な性質を、私が実際に見聞きしたエピソードを交えて紹介しています。

インタビュー:上原千都世
© 2015 Galatée Films – Pathé Production– France 2 Cinéma – Invest Image 3 – Rhône-Alpes Cinéma – Center Parcs – Winds – Pandora Film

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