
「リトルプリンス 星の王子さまと私」
矢本理子(Rico Yamoto)
1943年にニューヨークで出版されて以来、270をこえる言語や方言に翻訳され、これまでに世界中で1億4,500万部以上も読まれてきた大ベストセラーとは何か、皆さんはご存じでしょうか?
そうです。フランス人作家、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが書いた、あの有名な『星の王子さま』です。皆さんもきっと、これまでに一度は、この本をお読みになっていることでしょう。
自分がこの本を最初に読んだのがいつだったのか、頑張って思い返してみました。おそらくそれは、小学3年生、9歳の時ではなかったかと思います。その時に印象に残ったのは、色んな星を旅する王子さまでした。様ざまな小惑星を訪れるのですが、どこに行っても王子さまは、自分の質問には答えてくれず、理屈をこねくりまわすだけの、つまらない大人にしか出会えないのです。何だか困り果てた王子さまの姿が、目に浮かびますよね。おそらく当時の私も、家事仕事で忙しい母に色んな質問をなげかけては困らせていたので、そんな自分と王子さまとを重ねあわせていたのでしょうね。

次にこの本を読んだのは、高校生の時でした。象を飲みこんでしまったウワバミと、3本のバオバブの木に浸食されてしまった小さな星のイラストを見て、どうやったら、こんなアイデアを思いつくのだろう、と感銘を受けたものです。当時の私の夢は、美術大学に進学して油絵を学ぶことだったので、きっと本の挿絵に、心を奪われたのだと思います。その後、大学生や社会人になってからも、『星の王子さま』は、いつでも私のそばにありました。そして、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない。かんじんなことは、目に見えないんだよ」というきつねのメッセージを、一度たりとも忘れたことはありません。このように、『星の王子さま』は、読む度に異なるメッセージを、私に発信してくれていたような気がします。
つい最近、この大切な本を読みなおしてみました。今回、発見したことは、友情についてです。王子さまときつねが、そして飛行士と王子さまが、それぞれ出会い、仲良くなります。彼らにはいずれ別れの日がおとずれるのですが、でも、それほどは悲しくないのです。何故なら、一度仲良しになったもの同士は、たとえ離ればなれになってしまったとしても、いつでも、心は繋がっているのですから・・・。

現在、『星の王子さま』が原案となった「リトルプリンス 星の王子さまと私」というアニメーション映画が公開されています。むかし飛行士をしていた、自由気ままに生きているお爺さんと、彼の隣家に引っ越してきた、教育ママの管理のもと、分刻みのスケジュールに沿った勉強漬けの毎日を送っている9歳の孤独な少女との、心の交流を描いた作品です。この映画の面白いところは、歳をとった飛行士が少女に語る彼の過去が、『星の王子さま』の物語そのものであること。そしてその物語が、ストップモーション・アニメーションとして、映画の中で再現されていることです。このアニメ版「星の王子さま」に驚きました。これほど、原作の持ち味を損なうことなく、その世界観を見事に映像化した作品は、珍しいのではないでしょうか。さて、「リトルプリンス 星の王子さまと私」には、色々な人が思いがけない姿で次々と現われます。いったい誰が、どんな姿で登場するのか。ぜひ皆さんも、映画館で確かめてみて下さいね。

はてさて、皆さんは将来、どんな大人になりたいですか? これは、なかなかの難問です。とっくの昔に大人になってしまった私ですが、子どもの頃、どんな大人になりたかったのか、はっきりと思い出せません・・・。それでも、これだけは言えるのです。子どもの頃に、こんな風な大人にはなりたくないなと感じた人々とは、全く異なる人生を、現在の自分が歩んでいるということです。何故それが可能だったのかというと、きっとそれは、私が9歳の頃に読んだ『星の王子さま』に登場する、象を飲みこんでしまったウワバミの絵を描いてくれた、素敵な飛行士さんのおかげだと思うのです。
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