『クーキー』監督インタビュー

『クーキー』ヤン・スヴェラーク監督インタビュー

チェコの伝統文化である人形劇と
童話の力で、人間の生と死を伝えたい

人形劇が伝統文化とされるチェコで大ヒットした『クーキー』は、ほぼ同時に公開された『トイ・ストーリー3』を越える大ヒットとなったパペット映画です。ピンクのテディベアが活躍するキュートな冒険物語を監督したのは『コーリャ 愛のプラハ』で米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した経歴を持つヤン・スヴェラークさんです。

「大学在学中から実写映画を撮り続けてきたので、自然界の小さなものに焦点を当てた、童話的な映画を作りたくなったんです。人形アニメを見て育ちましたし、中学生の頃には父から譲り受けた8mmカメラで人形劇を撮影したこともあります。大学卒業後にアニメ製作スタジオで働いた頃から、いつか人形アニメを作ろうと考えていました。」

クーキーを筆頭にかわいらしいキャラクターが登場しますが、彼らの会話が現実的でシビアなものが多かったことが意外でした。
「童話は子供たちに人生のヒントを教えるものなので、ハッピーエンディングでなくてもいいんです。また、童話にはタブーとされがちな人間の生き死やセックスを伝える役割があると思っています。もちろん、子供たちがショックを受けない程度に、ですが。私には子供が3人いますが、彼らの祖父母も、私たち夫婦も、そして、彼ら自身もいずれ命を終えます。子供たちにとって人の死は悲しい事実である一方、人間とは代々生と死でつながっているのだと学んでほしいのです。」

CGで複雑な表現が可能になった現代で、自然の森の中で操り人形を使って撮影したのはなぜですか?
「現代の子供たちが見ているアニメや映画はCGで作られた虚構の世界ばかりで、身の回りにあるものを映し出すものがありません。そんな主流とは逆に進もうと作ったのが『クーキー』です。森で撮影したのも、自然が織りなす微妙なハーモニーや静けさを見てほしかったから。森の中は一見するとカオスだけれども、それぞれが有機的に結びついているし、そもそも我々人間も自然の一部ですしね。人工的に作られた映像や世界は、自然の代わりにさえならない頼りないものに見えてくると思います。」

映画作りに息子を巻き込んだ結果、
子育ての充実感を得られた

クーキーの親友、オンドラくん役に息子のオンジェイくんを起用した理由を教えてください。
「理由はふたつあります。ひとつは撮影方法が関係しています。人形劇は、撮影前に仮で録音したセリフに合わせて操り師がキャラクターを動かして撮影します。私もオンジェイと私の父(俳優、脚本家などとして活躍するズデニェック・スヴェラークさん)にクーキーとヘルゴットの仮の声を頼み、最終的にプロの俳優の声を当てる予定でした。ところが、スタッフも私もずっとふたりの声を聞いて撮影していたため、ふたりの声に愛着が湧いてしまい、そのまま起用することになりました。」

来日した監督と息子のオンジェイ君

「ふたつめの理由は、オンジェイの子育てに関わりたかったからです。私には28歳と24歳の子供もいますが、ふたりが子供の頃は私が撮影続きで家を空けることが多く、気づいたら大人になっていました(笑)。彼らの成長に積極的に関われなかったことに、今でも悔やんでいます。オンジェイが生まれたとき、この子の成長だけはしっかり見届けると決めたんです。偶然にも『クーキー』の製作でオンジェイと父、親子3代で同じ目標に向かって集中するという非常に貴重な体験ができました。こうしてオンジェイと一緒に東京へも来られましたし、大変満足しています。」

成長記録を撮るより親子で映画作りを
身近な素材で気軽に始めてみましょう

親子で映画を楽しむコツを教えてください。
「我が家では子供には”これは最悪だから見るな”と教えることが多いですね(笑)。家族で映画を観賞するときは『インディ・ジョーンズ』や『007』のようなアクション映画と、妻が好きな恋愛映画のどちらかから選びます。私にとってアクション映画とは、子供心をワクワクさせて想像力を豊かにしてくれる栄養源なのです。」
「私が撮影下手なのもありますが、成長記録としてのホームムービーは一切撮影しません。ただし、映画作りは娯楽のひとつとして取り入れていますよ。今は簡単に動画撮影ができるので、みなさんも難しいことを考えずに、気楽にスタートボタンを押せばいいんですよ。親子で映画作りに夢中になった時間は、きっと大切な思い出になりますから。Just do it!」

近年のスピーディで極彩色の映像が続くアニメを見慣れた子供には、穏やかな世界は退屈に見えるかもしれません。でも、自分のお気に入りにクーキーと同じ事件が起きたら……、と想像した瞬間、ハラハラしながら冒険を見守るようになり、明確な答えのないラストのせいで、見終わった後もぼんやりとその後を想像するようになるでしょう。
想像力をジワジワと刺激する『クーキー』は、親子で語り合いたくなる映画です。お気に入りの縫いぐるみを連れて、劇場へ行くことをオススメします。

(インタビュー・文 落合有紀)

©2010 Biograf Jan Svêrák, Phoenix Film investments, Ceská televize a RWE.

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