
バレエダンサーのお仕事
『リトル・ダンサー』『エトワール』
(上坂美穂)
実は三十路を過ぎてから大人のバレエ教室に通っていた過去のある私。出産をはさんで足掛け6年も続けましたが、残念ながら子どもは全員男のため、バレエを一緒に楽しんでくれません。でも、男の子がバレエに憧れてもいいじゃないか! というわけで最初に紹介する「リトル・ダンサー」の主人公は少年です。
1984年、サッチャー政権下で不況にあえぐイギリス北部の炭鉱町を舞台に、バレエに魅せられた少年が、周囲を巻き込みながら自分の夢を叶えていく物語。普段は口数少ない主人公ビリーが、ダンスで自分の気持ちを爆発させるシーンは圧巻。青い海と坂道を背景に、また、クリスマス深夜の体育館で父を前に気持ちをぶつけるダンスシーンは、踊ることへの純粋な喜びに満ちていて、こちらの目頭が熱くなるほど。
炭鉱で働き、労働争議の真っ最中にいたビリーの父は「男がバレエなんて?」と当惑し、激怒しますが、やがて息子を応援するようになる。その葛藤には、子どもの職業選択や夢への思いをハラハラしながら見守っている日本のお父さんお母さんも共感してしまうのではないでしょうか?
さて、「リトル・ダンサー」のビリーは英国ロイヤル・バレエ学校を受験しますが、「エトワール」は、フランスのパリ・オペラ座バレエ団の実際のダンサーたちに密着したドキュメンタリー。モーリス・ベジャール振付『第九交響曲』の日本公演から始まります。

「エトワール デラックス版」¥3,800(税別)
発売元:カルチュア・コンビニエンス・クラブ
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
「舞台は麻薬だ。毎回、死ぬほどの恐怖を味わう。自分の演技に対する満足度はせいぜい75%足らず。でも止められない」。そんなダンサーの告白が冒頭にありますが、華やかな魔力に満ちた舞台で踊る恍惚と血の滲むような努力、そしてストイックな生活。踊ることが仕事になるというのはそのようなことです。タイトルのエトワールというのはオペラ座の最高峰のダンサーに与えられる称号ですが、ダンサーたちが属するのは徹底した階級社会。頂点のエトワールから一番下のカドリーユでは給料は3倍違うこと、また、引退は女子で40歳、男子で45歳という(ほかの職業なら働き盛りの年齢!)で、年金はその年から支払われるという、「仕事」としての面も知ることができます。
「ただ踊りたかった。観客と舞台を共有すること、それが僕の人生だ」(マニュエル・ルグリ)。エトワールだけではなく、バレエ団の全員のそのような情熱が、プロフェッショナルの誇りと技術とともに夢のような舞台を支えているのだと実感。思わず自分の背筋をピンと伸ばしてしまうドキュメンタリーです。
「リトル・ダンサー」1,429円(税別)
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント