このノートを使う仕事とは?

石橋 和巳(作曲・編曲家)
小学生の頃からフルートやピアノを習い、日本大学芸術学部音楽学科で作曲を学ぶ。
在学中よりスタジオで映画やドラマの音楽を勉強する。美術館のハイビジョン映像用BGMの
作曲や、コンサート等でオーケストラの編曲を多数手がける。2012年、文化庁若手アニメーター等人材育成事業「アニメミライ」で「ぷかぷかジュジュ」の音楽を担当。歌伴奏から映像作品まで多ジャンルにわたり作曲・編曲を手掛けている。JCAA(日本作編曲家協会)会員。

映画音楽の仕事
ミュージカル映画はもちろんのこと、映画にとって音楽はなくてはならないもの。テーマソングを聞いて、映画のシーンを思い出すという方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。そんな映画に欠かせない音楽の秘密を、映画のサウンドトラックが大好きとおっしゃる作曲・編曲家の石橋和巳さんに教えて頂きました。

どうやって映画に音楽をつけていくの?
音楽を作るときは、まず脚本や、アニメーションの場合は絵コンテ(撮影前に用意されるイラストによる表)を見ながら、どこにどんな音楽をつけるか音楽プロデューサーや監督と相談し、まずはメイン・テーマとなるメロディを作曲します。「ぷかぷかジュジュ」の場合は主人公のミカという女の子とパパのテーマ曲を考えました。1ケ月くらいかけて数十曲もの短い曲を作って、音楽プロデューサーや監督に聴いてもらい、何度も話し合って、テーマ曲のモチーフ(映画の中で中心となるメロディ)が決まります。そしてこのテーマ曲をもとにいろいろな場面に合わせて、作曲・編曲をしていきます。映画音楽の場合は、どの場面に何秒音楽が必要かというのがあらかじめ決まっていますので、それに合わせて曲を作ります。

「ぷかぷかジュジュ」は海のお話なので、石橋さんは水面がきらきらと光っている感じを音楽で表現するために、弦楽器のトレモロ(音を連続して小刻みに弾く技法)という演奏方法を多く使いました。またチェレスタ(鉄琴のような音色がでる鍵盤楽器)やハープを用いることで、水が動く様子を感じられるようにしました。また、水中の世界でミカとジュジュが、ミミカ様という女の子に追いかけられるシーンがありますが、ここではチェロやコントラバス、ピアノの低い音で恐い感じを出しました。映像の印象をさらに高めるのが音楽の大事な役目なのです。

コンピューターのシーケンサーというソフトで音楽のデモ(監督などに聴かせる試作品)を作曲していきます。映像と一緒に音楽を再生することができます。

楽器ごとに楽譜を書いて最終的な編曲(オーケストレーション)をしていきます。

楽譜が完成すると、オーケストラと音楽スタジオで録音作業を行います。撮影:浅岡揺 in ソニー・ミュージックスタジオ

映画音楽の作曲家としての出発点=サウンドトラック
小学校5年生の時に「かっこいいから」とフルートを習い始めた石橋さんですが、次第に音楽の魅力に取りつかれていきます。そして作曲家、編曲家という仕事に憧れを抱くようになったのには、映画との深い関わりがありました。
子どもの頃、家に8ミリカメラと映写機があり、自分で撮影をしたり、借りてきたディズ
ニーのアニメーションを家でよく見ていたそうです。映画館で見た映画の中では、ジョン
・ウィリアムズが音楽を担当した「E.T.」が忘れられないとおっしゃいます。ストーリーはもとより、壮大なスケール感のあるその音楽に心を奪われたそうです。映画と音楽という2つの興味が一緒になり、石橋さんは映画のサウンドトラックを熱心に集めるようになります。

石橋さんのサントラ・コレクション

映画を見ると真っ先に誰が音楽を担当しているのかが気になるそうです。「クラシック音楽も大好きですが、現代に作曲された音楽が何百、何千という映画館で毎日流れているという事実は、とてもクリエイティブな刺激を与えてくれました」と石橋さんはいいます。

好きなだけではプロにはなれない
作・編曲家にとって大切なことは何か伺ってみました。石橋さんは、尊敬するジョン・ウ
ィリアムズのように映画につける音楽のモチーフ(テーマ曲)をシンプルにすることが大事だとおっしゃいます。セリフや効果音がきちんと聞こえなければいけませんし、音楽が前に出すぎるのもよくありません。

音符を書きとめる五線譜ノート

そして音楽の仕事については、「好きなだけではダメだけど、まず好きでなければ出来ない仕事。自分特有の“カラー”を持つことが重要です」と答えてくださいました。石橋さんの場合は和音の使い方に特徴があるとよく言われるそうです。そして、考え続けることが欠かせないとも。演奏者のこと、観客のこと、いい仕事ができているか、曲の発想が浮かばない時も決してあきらめず考え続ける。それこそが、プロの仕事として続けていくための秘訣なのだと教えてくださいました。

「好きなことを考え、やり続け、新しいものを作る」という石橋さんの言葉は、音楽だけでなく、どんなことにもきっと当てはまる素晴らしいメッセージだと思います。

「ぷかぷかジュジュ」 (C)The Answerstudio

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