「ヒューゴの不思議な発明」

映画と本をご紹介するコラムです。第1回はマーティン・スコセッシ監督作『ヒューゴの不思議な発明』の原作本です。

「ヒューゴの不思議な発明」
矢本理子(Rico Yamoto)

まか不思議な映画を観ました。マーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」(2011)です。舞台は1931年のパリで、主人公は12歳の少年ヒューゴ。ひとりで駅の時計塔に暮らしている彼の仕事は、時の番人です。駅に設置された大小の時計を点検し、正確な時をきざませることが、彼の日課でした。ヒューゴは毎日、駅の裏側を歩きまわり、1つ1つの時計を確認して、ネジを巻いていきます。そして時おり、時計板の裏側から、外の世界を覗いていました。

駅の構内にはいくつもの売店があり、その中の一軒のおもちゃ屋で、ヒューゴはたびたび盗みを働いていました。彼にはどうしても、ネジや歯車といった部品が必要だったのです。理由は、父が残した秘密の“からくり人形”を修理するため。ある日、ぜんまい仕掛けのネズミを盗もうとしたヒューゴを、おもちゃ屋の老人が捕まえました。これまでに何度もおもちゃを盗まれたことに腹をたてていた老人は、ヒューゴが大切に持っていた父の形見のノートを取り上げてしまいます。人形の修理法が書かれたノートを取り返すため、ヒューゴは老人を追いかけ、イザベルという少女と知りあいます。そしてさらに、自分の“からくり人形”と、この老人パパ・ジョルジュとの間には、不思議な繋がりがあることを発見するのです・・・。

映画の原作本が素晴らしいのです。一見、絵本のようにみえますが、単なる絵本ではありません。300枚近いモノクロの鉛筆画が動く映像のようなイメージを紡ぎだし、それらの絵画のあい間に物語が挿入されています。1枚1枚ページをめくると、あたかも映画を観ているかのような錯覚をおぼえます。この独創的な原作を生みだしたのは、アメリカ人のブライアン・セルズニックです。彼はあるとき、昔から大好きだった映画監督ジョルジュ・メリエスの、捨てられてしまった“からくり人形のコレクション”についての本を読み、この物語を思いついたそうです。

原作は映画とは異なり、2部構成になっています。前半は、ひとりで人形を修理してきたヒューゴが、イザベルの助けを借りて、とうとう人形を動かせるようになるお話。後半は、単なるおもちゃ屋の老人と思われていたパパ・ジョルジュの素性がだんだん明らかになるにつれ、この物語そのものが、映画史に燦然と輝く映像の魔術師、ジョルジュ・メリエスへのオマージュへと変容していきます。この流れが素晴らしいのです。実際、スコセッシ監督の映画にも、リュミエール兄弟の「列車の到着」(1885)やジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」(1902)が登場します。それらの映像からは、当時の、まだ映画が新しい芸術として人々の夢や想像力をかきたてていた幸せな時代の空気が伝わってきます。ヒューゴ役のエイサ・バターフィールドが印象的です。少年が少年期にしか持ちえない、真実を追い求める、透きとおった瞳をしています。

ジョルジュ・メリエスという、実在の人物を登場させることで、1930年代のパリと、80年後の現代とを結びつけた、この魔術的なファンタジーは、さらに、映画化され、視覚化されたことで、その魅力を増すことになりました。この魅惑的な世界を体感するには、原作と映画の両者を味わうことをお薦めします。

(C)Paramount Pictures 2011
大ヒット上映中!(3D/2D同時公開中) 公式HP

原作「ユゴーの不思議な発明」
(ブライアン・セルズニック著、金原瑞人訳、アスペクト文庫)
※この物語の舞台はパリですが、映画はアメリカで撮られたため、映画では主人公の名前はヒューゴ、原作ではユゴーと表記されています。

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