この手袋の持ち主はだれ?

今回の映画しごと図鑑は、撮影監督の浜田毅さんにお話を伺いました。この手袋をすると、「よし、撮影するぞ」と気持ちが引き締まるのだそうです。

撮影監督 浜田毅
大学在学中から、撮影助手としてキャリアをスタートさせる。国際放映、セントラルアーツ、三船プロなどでTVの撮影に数多く携わる。32歳の時に、「生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言」で、映画の撮影監督としてデビュー。代表作に「いつかギラギラする日」(92)、「涙そうそう」(06)、「おくりびと」(08)、「天地明察」(12)などがある。

決めすぎると、身動きができなくなる
あたりまえのようですが、映像をカメラで撮影するのが、撮影監督の仕事です。でも、カメラのスタートボタンを押せば、誰でも映画が撮影できる訳ではありません。
何をどのくらいの大きさで撮影するのか、どこまでをフレームに入れるのか、レンズや機材をどうするかなどを決定します。最終的に映画に写っているものの最終責任者が、撮影監督なのです。

まず台本を読んで、撮影の準備を始めます。しかし浜田さんは、台本を読んでも、あまりイメージを固め過ぎないようにしているそうです。それは、撮影の場所、演じる俳優さん、予期せぬアクシデントなど、その場その場でベストなものは何かを判断しながら、作り上げていくからです。だから浜田さんは、台本を読んだ時に「こんな感じかな?」という程度にとどめておきます。大事なことは、その一瞬一瞬、ベストな判断ができるように、気力、体力を充実した状態にもっていくことだとおっしゃいます。

台本と「おくりびと」のアカデミー受賞を記念して贈られたアングルファインダー

技術より、流れをつかむ力が大切
撮影部のスタッフは、カメラという「機械」の知識が必要なので、技術の話をするのが好きな人が多いそうですが、浜田さんは違います。「撮影技術がうまい人はたくさんいます。でも、技術はすぐに古くなります。その人が得意とした技術も、新しいテクノロジーにとって代わられたら、いったい何が残るのでしょう?」。
重要なのは、「流れ」をつかむことだと、浜田さんはいいます。俳優さんたちの演技の流れを理解し、俳優さんたちと呼吸を合わせるように、その演技をカメラにおさめていくのです。その場面の演技に合った絵を撮影しないと、映画が台無しになってしまいます。
そのためには常日頃から、人の表情や、体の動きといった様々なことに、興味を持って、観察、理解することが大事だと浜田さんはいいます。

携帯灰皿を兼ねたコンパスとペンライト。遠くの場所を照らして位置を指示します。

50歳まで、自分がこの仕事に向いているか分からなかった
浜田さんは学生時代から撮影助手として、映画やTVに携わるようになり、32歳で初めて撮影監督として映画デビューを果たします。当時から映画は好きでしたが、撮影の仕事が自分にむいているのか、ずっとわからなかったといいます。39歳の時に「僕らはみんな生きている」(92)と、「いつかギラギラする日」(92)を撮影して、なにかが吹っ切れて、恐いものがなくなったと浜田さんはいいます。「40代は、その勢いで走り切りました。そして50歳くらいになって、『この仕事に向いてるのかな』と初めて思えたのです」。
石の上にも3年といいますが、なんと浜田さんの場合は30年! 大切なことは、長く続けてみなければ、わからないものなのですね。

愛犬ミントと一緒に。

そんな浜田さんが、学生時代夢中になった映画について、教えてくださいました。
「ゴダールの映画が大好きで、『気狂いピエロ』を何度も何度も見ました。最後には、セリフを暗記するまでになりました(笑)」。
ゴダールと伺って、一瞬意外な気もしましたが、よく考えれば、心で映画を味わい、優れた感性で映画を理解する浜田さんらしい作品だと思えてくるのでした。<聞き手:工藤雅子>

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