「ホビット 思いがけない冒険」

映画と本をご紹介するコラム、第9回です。

「ホビット 思いがけない冒険」
矢本理子(Rico Yamoto)

映画館で予告編を観ているときに、「ああ、ついにこの映画がきた~!」と叫びそうになることがあります。そうです。先日そんな瞬間が訪れました。なぜなら、英国ファンタジー界の金字塔、あの『ホビットの冒険』の映画が、ついに公開されるからです。

日本では2002年から順次公開された「ロード・オブ・ザ・リング」3部作をご覧になった方は、大勢いらっしゃることでしょう。世界を滅ぼす魔力を秘めた“1つの指輪”をめぐり、小人のホビット族のフロド・バギンズを含む9人の勇者たちが、悪の勢力と壮絶な戦いを繰り広げる、あの壮大なファンタジーです。原作『指輪物語』は、オックスフォード大学の言語学者であったJ.R.R.トールキンによって生みだされました。イギリスで1954年から1955年にかけて3部に分けて出版された『指輪物語』は、“20世紀に書かれた最もポピュラーな本”と言われています。

『ホビットの冒険』オリジナル版(J.R.R.トールキン 絵・著、岩波書店、2002年)*表紙もトールキンによるものです

本日ご紹介するのは、『指輪物語』の前日譚にあたる『ホビットの冒険』です。1937年に出版された、こちらの冒険談の主人公は、フロドの養父であるビルボ・バギンズ。彼は平和なホビット庄で、50歳ぐらいまでつつましい生活を送っていました。しかし、ある春の日、ビルボの袋小路屋敷に、祖父の友人であった魔法使いガンダルフが訪ねてきます。ガンダルフによって、“忍びの者”として推薦されたビルボは、突如、トーリン・オーケンシールドを中心とする13人の、別の小人族であるドワーフたちと共に、竜スマウグが支配する北の“はなれ山”へ旅立つことになります。ドワーフたちは、スマウグに奪われた彼らの故郷と財宝を取り戻そうとしていました。

それは長く辛い旅路でした。はじめのうち、小心者のビルボは文句ばかり言っていました。けれど旅の途上で、山の怪物トロルや霧ふり山脈に住むゴブリンたちと戦ううちに、ビルボは少しずつ変わっていきます。そしてゴブリンの洞くつで偶然ひろった指輪の力を得て、謎の生き物ゴクリ(映画では「ゴラム」)から逃げだしたあと、ビルボは勇気と気転と指輪の力で、ドワーフたちを何度も危険から救い出すのです。様ざまな困難をのりこえ、一行が目的の土地に辿りついたのは、秋の終わり頃でした。しかしながら、スマウグは向かうところ敵なしの邪悪な竜です。果たしてトーリンたちは、故郷を奪い返すことができるのでしょうか……? このお話の続きが気になる方は、ぜひ、『ホビットの冒険』をお手に取ってみて下さい。小さき勇者ビルボが、さらなる活躍をみせてくれます。

さて、12月14日から始まる映画版「ホビット 思いがけない冒険」ですが、こちらでは原作の約三分の一が映画化されていました。映画の素晴らしいところは、本のなかでは語られるだけの昔話を、動く映像で表現できる点です。トーリンたちの故郷、“はなれ山”の見事な宮殿の様子や、ドワーフ族とエルフ族との確執など、原作の『ホビットの冒険』では詳しく書かれていなかった中つ国の歴史が、映画ではより詳細に描かれています。

また私が驚いたのは、主人公ビルボの活躍です。原作よりも、映画のなかのビルボのほうが、ずっと勇気があります。とくに映画版では、彼が思いもよらぬ行動にでるのです。
舞台である中つ国が美しいことにも感動しました。実際この物語は、「ロード・オブ・ザ・リング」の時代よりも60年ほど前の出来事なのですが、まだ平和だった頃の緑豊かな景色や、お馴染みの登場人物たちの若い様子など、映像化の際によく考え抜かれていると思いました。2時間50分の作品ですが、その長さをまったく感じさせない冒険ファンタジーです。そして原作ファンの方なら、最後のシーンで、あっと思うことでしょう。第2部『ホビット スマウグの荒し場』が、いまから楽しみです。

*登場人物や地名などは原作本の表記に準じています。

© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
映画公式サイト

矢本理子(Rico Yamoto)
東京うまれ、茨城県そだち。大学では社会学と歴史学を、大学院では西洋美術史を学ぶ。
1995年に岩波ホールへ入社。
現在は宣伝を担当。

【過去の記事】
≫「ヒューゴの不思議な発明」
≫「床下の小人たち」
≫「グスコーブドリの伝記」
≫「ピーター・パン」
≫「本へのとびら ― 岩波少年文庫を語る」
≫「白雪姫と鏡の女王」
≫「009 RE:CYBORG」
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