編集ってどんな仕事?

映画は撮影した後に、「編集」というプロセスを経て完成しますが、編集とはいったいどんな仕事なのでしょうか。『おくりびと』や、『愛を乞うひと』などで日本アカデミー賞編集賞を4度受賞されている編集のベテラン、川島章正さんにお話を伺いました。川島さんは、日活芸術学院や多摩美術大学、東北芸術工科大学で後進の育成にも熱心に取り組まれており、まるで映画学校の授業のように、「編集の仕事とは?」を説明してくださいました。

川島章正
72年、日活入社。95年よりフリー。日本アカデミー賞最優秀編集賞を4度受賞。2009年度、芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。
【代表作品】『僕達急行 A列車で行こう』(2012)『武士の家計簿』(2010) 『おくりびと』(2008)『金融腐食列島』 -呪縛 –(1999)『愛を乞うひと』(1998)

日活調布撮影所でお話を伺いました。

編集は第二の演出
映像をどのくらいの長さで、どんな順番につないでいくかで、映画の印象は全く違ったものになってきます。「編集は第二の演出」と呼ばれるのだと、川島さんは教えてくださいました。「編集には間違った編集、というのは存在しないんです。面白いか、面白くないか。監督の演出意図に合っているか、合っていないかという事だけなんです」。

川島さんの場合、最初は台本通りに映像をつないでいきます。映画の台本は映画が完成した時におよそ1ページが1分になるように書かれているので、台本を見ればどのくらいの長さの映画になるか分かります。2時間で120ページくらいの台本になるそうです。
その際、「ここら辺に音楽がつくだろう」と予想しながら編集をします。後でどこに音楽をつけるかは音楽家、監督を交えて相談していきます。

監督につないだものを見てもらって話し合い、編集を変えていきます。最初にできたものから10分短くするといいものになると、よく言われているそうです。
編集の仕事は、撮影がすべて終わってから始まる訳ではなく、撮影と並行して進めていくのだそうです。

ステインベックで作業する川島さん

「技術」が一番大切
「撮、照、録、編、美、スクという言葉を知っていますか?」と川島さん。これは撮影、照明、録音、編集、美術、スクリプターと映画製作に必要なプロセスのことですが、編集の仕事はこのすべてのプロセスをわかっていないとできない仕事だと川島さんは話します。
また川島さんが編集に重要と考える「編集の5つの基本」があります。それは、技術、リズム、経験、心理学、感性の5つ。その中でも技術が一番大切だと川島さんは話します。どんな効果を使うか、どんなつなぎ方をすれば監督の意図をより表現できるのか・・・。感性だけで仕事をしていると、すぐに行き詰り、どれも同じような編集になってしまう。だからたくさんの作品を見て勉強し、技術を磨いていくことが大切だと川島さんはおっしゃいます。

撮影は見ない~編集は客観性が大事
川島さんは、できるだけ撮影の様子は見ないようにしているそうです。みんなが苦労しながら、がんばって撮影しているのを見てしまうと、編集の手が鈍ってしまうからだそうです。編集はその映画の「最初の観客」だと川島さんは言います。どれだけ客観的に映画を見ることができるかがとても重要なのです。
編集は重要な仕事ですが、川島さんは「編集は見えないのが一番いいんです」と話します。観客が編集されたことに気づかない・・・そんな究極の黒子を川島さんは目指しています。

ステインベックよりも古い機械(ムヴィオラ)
ペダルを足で踏んで、フィルムを動かします

子ども時代は、米軍の町でアメリカ映画三昧
「僕が生まれたのは東京の昭島市。米軍の基地があって小さい頃からアメリカ映画を見て育ちました。アメリカ人がどっと笑った後に僕たちは字幕を見て、ちょっとずれて笑ったりしてね (笑)」。高校生ぐらいになって、ヨーロッパ映画も見るようになったそうですが、川島さんにとってより魅力的だったのはアメリカのエンタテインメント作品。印象に強く残っているのはマイク・ニコルズ監督の『卒業』だそうです。

川島さんが、編集の仕事に就くきっかけは、映画の専門学校時代の恩師が「きみは編集に向いているよ」とアドバイスをくれたこと。学校の紹介で日活の撮影所に就職し編集の仕事を始めます。その後撮影部へ異動の話もありましたが、編集という仕事の虜になっていた川島さんは編集の仕事を続け今に至ります。川島さんの夢は「自分が携わった映画が世界中で同時に見られること」。夢の実現に向けて、ネットワークづくりや勉強を続けるとおっしゃっていました。

ステインベックという機械に編集するフィルムをセットします。
上のモニターに映る映像をみて、編集する場所を決めていきます。
使う場所に白いペンで印をつけます。

実際にフィルムを切るのは、助手の仕事。
ここにフィルムを装着します。
スプライサーという機械で
切ったフィルム同士をつないでいきます。
この時使用するのは和バサミ。
海外で編集した時、めずらしがられたそうです。
編集し終わったフィルムを
ここに巻き取っていきます。
今では、フィルムの編集は少なくなっていて
コンピューターで編集作業を行います。
製作される映画の8割はコンピューターでの編集になりました。

川島さんのお話を伺って、編集の仕事の奥深さとおもしろさの一端に触れることができました。川島さんは作品の編集について聞かれたら、なぜそうしたのか全部理由が言えるとおっしゃいました。この仕事は論理的な人でないとできないと強く感じました。同時に監督の意図を汲むコミュニケ―ション力や「ここをカットする」という決断力も求められ、編集は、人間力も鍛えてくれる素晴らしい仕事だと思いました。(聞き手:工藤雅子)

取材協力:日活調布撮影所