2023年パパ・ママ映画ジャーナリストが選んだベストワン

『君たちはどう生きるか』 ©2023 Studio Ghibli

パパ・ママ映画ジャーナリストに選んで頂く「今年の1本!」。2023年のベストワンにはどんな作品が選ばれたでしょうか?!みなさんの推し作品、ぜひご覧になってみてください。

伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)

外国映画『ペルリンプスと秘密の森
ブラジル人監督アレ・アブレウ監督によるアニメーションは色彩豊かな森が舞台、そこに可愛らしいキャラクターが登場します。この二人は最初はいがみ合っているものの、あるものを一緒に探すことで友情を育んで行き、やがて欲望や傲慢さが招く破壊を目にすることになるのです。絵のタッチとは裏腹に哲学的なセリフで構成される動物のような子供たちの会話。彼らの世界はファンタジーなのに、突如、飛行機のようなものが現れるという展開から「戦争への道」を綴る抽象的な作品。それは偶然にも宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』に近しいアプローチなので、理解しづらいかもしれないけれど、一度見たら忘れられないインパクト。感性を育て、自分で考える力を手にしてもらえる傑作です。

日本映画 『窓ぎわのトットちゃん
黒柳徹子の幼少期を綴ったベストセラー児童小説をアニメ映画化。学校教育に馴染めないトットちゃんが色んな子を受け入れるトモエ学園に入り、小児麻痺の友達と交流をし、思いやりを学ぶ物語。校長先生の「みんな良い子」という言葉から、偏見を植え付けない教育を映画から知り、戦争に翻弄される子供たちの姿から「争うこと、憎むこと、蔑むことの愚かさ」に気付かされる作品です。親子で見て一緒に考え話し合えるのが何より本作の魅力。

森直人さん

外国映画 『グランツーリスモ
『第9地区』や『チャッピー』などのニール・ブロムカンプと、『モテキ』『バクマン。』などの大根仁。自分の好きな監督が久々に新作を発表したら、意外なアプローチの作品だった――というパターンでも共通していたのがこの2本です。
アメリカ映画『グランツーリスモ』はもっと評価されていい痛快なエンタメ映画で、ウチでは小学5年生の息子と一緒に『THE FIRST SLAM DUNK』に迫るほどのテンションで盛り上がりました。グランツーリスモはソニーのプレイステーション用のレースゲームを指しますが、これは単なるゲームの映画化ではなく、ベースになったのは日産とのコラボ企画「GTアカデミー」。もともとはゲーマーだった英国ウェールズの青年ヤン・マーデンボローが、なんとヴァーチャルからリアルへと飛び越え、本物のサーキットを走るプロのレージングドライバーになった驚きの実話を映画化したものです。いかにも今どきのお話のようで、基本の説話構造は父親との確執なども含む王道の自己実現もの。同時にスポコン的展開でもあり、筆者の世代的には往年の『コミックボンボン』の世界を彷彿させます。とにかく面白い一本。

日本映画 『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年)以来、5年ぶりとなった大根仁監督の新作映画はまさかの3DCG『クレしん』。脚本も大根監督のオリジナル。高田亮さんが脚本を務めた2020年の『クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』等もそうでしたが、社会派・風刺劇の側面がある『映画クレしん』シリーズのフォーマットは、担当する作家ごとの「教育論」が提示できる器になっているように思いました。本作もまた然り。大友克洋オマージュのサイキックバトルから、『仁義なき戦い』、『ムー』ならぬ『ヌー』、深田恭子の「キミノヒトミニコイシテル」(作詞・作曲・編曲:小西康陽)など、大根監督らしい楽しいサンプリング大会に彩られつつ、お話は明るい未来像が描きにくくなった令和日本の若者・子供たちへの応援歌。いつも超ポジティブな野原しんのすけの夢が「食うのに困らない大人になりたい」という箇所にはグッときました。

東紗友美さん(映画ソムリエ)

外国映画 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
イルミネーションと任天堂が共同で制作するスーパーマリオの映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、ゲーム原作の映画として歴代1位、またアニメーション映画全体でも歴代2位という映画史に残る大ヒットを成し遂げました。マリオがピーチ姫のお城で空中に浮かぶステージを次々にクリアしていくトレーニングシーン、五歳の娘はおもわず身体を動かしそうになりながら、五感を使って映画を楽しめている様子でした。もっと映画を好きになるきっかけをくれた作品でした。悪役キャラのクッパもピーチ姫に対しては一途でどこか可愛かったり、キャラクターの魅力も絶大です。

日本映画 『君たちはどう生きるか
そしてもう1本は宮崎駿監督が10年ぶりに世に送り出した長編アニメーション『君たちはどう生きるか』。これについては、子供は内容を理解しなくてもいい。映像だったり音だったり、宮崎駿さんの創り出した世界観に触れ、アートを楽しむような感覚で作品を楽しめれば良いとおもいます。日本が誇るアニメーションの巨匠の頭の中を覗く感覚を一緒に、子供さんと味わうのは貴重な時間となるはず!鮮やかな映像と臨場感のある音響が多いので、鑑賞後には、具体的にどのシーンが好きだったかなど聞き出してみてもいいかもしれません。そのシーンをリピートして楽しむこともアリですよね。

宇野維正さん

外国映画 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
現在中学生の息子は数年前までスーパーヒーロー映画に夢中だったが、今では日本のアニメーション作品ばかり見ていて、テレビシリーズも含めて粗製濫造されているマーベル作品への関心を失ってしまった。この傑作シリーズを除いて。父と子の関係を軸としていた前作に続いて、今作の軸となるのは母と子の関係(父と子の関係はもう一人の主人公グウェンのサブストーリーが引き継いでいる)。親離れに伴う痛み、仲間の大切さ、そして時には人生のレールから外れることも必要であること。ハリウッドの天才クリエイターたちが膨大なアイデアと時間と手間を投入した、本当の意味での「ティーンムービー」の最高峰。学校での三者面談のシーンを見て「とはいえ勉強もちゃんとしなきゃな」と思ってくれればいいのだが。

日本映画 『かがみの孤城
2022年の年末に公開されたことで、『すずめの戸締り』と『THE FIRST SLAM DUNK』に話題も観客ももっていかれてしまった隠れた佳作。現代の日本社会が見て見ぬふりをしている深刻な不登校問題に誠実に向き合いながら、ファンタジーの跳躍力で風通しのいい場所へと連れていってくれる。クラスメイトまで含めたら、もはや子供たちは誰もが当事者。親子で一緒に観た後、作品について語り合ってみるのもいいだろう。

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