ブレッドウィナー/生きのびるために

ブレッドウィナー/生きのびるために

Text by Yamoto Rico (矢本理子)

12月20日から公開が始まったカートゥーン・サルーンの最新作「ブレッドウィナー」をご紹介します。英語のタイトル“breadwinner”とは、文字通り、パンを獲得する人のことで、稼ぎ手を意味します。本作は、ある日を境に、ブレッドウィナーとして自分の家族を支えなければならなくなった、11歳の少女の過酷な体験を描いています。

舞台は2001年以降の、タリバン政権下のアフガニスタンの首都カブール。パヴァーナは、お話を作って語るのが大好きな、ごく普通の女の子で、街はずれにある小さなアパートの一部屋に、元教師の父、作家の母、姉、幼い弟とつつましく暮らしています。当時のカブールを掌握していたタリバン政権は、厳しい制約を人々に課していました。女たちは学ぶことはおろか仕事につくことも禁じられ、外出時には全身を覆うブルカの着用を義務づけられ、同伴の男がいないと、外出さえ許されませんでした。

パヴァーナは、戦闘で片足を失った父と、毎日、市場に赴き、家に残ったわずかな品物を売ったり、人々のために手紙を読み書きして生計をたてている父を手伝っていました。しかしある日、父がタリバン兵たちに因縁をつけられ、カブール郊外の刑務所に連れ去られてしまいます。稼ぎ手を失い、困窮する家族。数日後、パヴァーナは長く伸ばした黒髪を自ら短く切り、亡くなった兄の服を着て、街へ向かいました。もう家には、食べるものが何ひとつ残っていなかったのです。

通りで常に目をひからせているタリバン兵たちにおびえ、息苦しい空気に覆われた街の中で、男たちは内心、不平不満を抱いていても、沈黙を貫きます。もしも彼らに逆らえば、命を失いかねないからです。タリバンの掟に従わない男たちや教育を受けた者たち、女たちへの暴力もまた、日常茶飯事でした。そんな中“少年”となった11歳の少女が、街にたった1人で出かけ、買い物をし、井戸に通って水を汲み、市場でその日の糧を稼がねばならないのです。私たちと同時代を生きている人々の生活だとは、俄かには信じがたい現実です。しかし、そんな過酷な社会状況のもとでも、人間性を失わず、パヴァーナを助けてくれる人々もいます。彼女よりも先に、“少年”として働き始めていたクラスメートのショーツィアは、パヴァーナに、街の仕組みや新しい仕事を教えてくれます。タリバン兵のラザクもその一人。文盲の彼は、妻の死を知らせる手紙を読んでくれたパヴァーナを気にかけ、時には、市場で1人きりのパヴァーナの隣に座り、さりげなく身の安全を守ってくれるのです。実際、父との再会を諦めずに刑務所に赴いたパヴァーナに、最後の手を差し伸べてくれたのは、この心優しい兵士でした。

映画の原作は、カナダ人のデボラ・エリスが書いた『生きのびるために』。本を読むと、映画よりもさらに詳しく、タリバン支配下の暴力的な日常がわかります。原作はフィクションですが、作者はパキスタンの難民キャンプでアフガニスタンから逃げてきた人々の聞き取り調査を行い、その話をもとにして、原作を書きあげました。しかしながら、このアニメーションの魅力は、原作に新たな要素が付け加えられた点にあると思います。それは、父がパヴァーナに、そして彼女が弟ザキに物語る、劇中劇で表現されています。はるか古代からシルクロードの東洋と西洋が交差する“文明の十字路”であった、このパルティアという土地は、豊かで美しい土地であったがために、様々な近隣諸国から攻められ、蹂躙されてきました。しかしそのつど、勇敢に戦い続けた誇り高いアフガン人の歴史と文化が、これらの昔話に集約されているのです。

邪悪なゾウの王によって奪われてしまった大切な作物の種を取り返すために、物語のなかで孤軍奮闘する少年スリマンの姿が、パヴァーナの心優しい兄スリマンと徐々に重なっていき、やがて彼女自身を、ある奇跡へと導くシーンに、魂を揺さぶられました。どんなに過酷な状況のもとにあっても、人が生きていくうえで失ってはいけないものとはなにか。その勇気を、11歳の少女パヴァーナが行動で示してくれました。目の前の不正や厳しい現実を見つめ、しっかりと生き抜いた彼女の真っ直ぐな瞳が、私たちに突き刺さります。

©2017 Breadwinner Canada Inc./Cartoon Saloon (Breadwinner) Limited/ Melusine Productions S.A.

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