2017年パパ・ママ映画ジャーナリストが選んだベストワン

恒例のパパ・ママジャーナリストに選んで頂く「今年の1本!」。2017年のベスト1には洋画・邦画どんな作品が選ばれたでしょうか?!

森直人さん

洋画 『SING/シング』
2017年、僕個人は完全に『ラ・ラ・ランド』中毒だったんですが(笑)、同じミュージカル系でも、親子で一緒に観たいのはこのイルミネーション・エンターテインメントの傑作アニメーションです(うちの息子はまだ5歳なので今後のお楽しみ)。
再起をかけた劇場支配人のコアラのもとに、屈託や鬱屈を抱えた動物たちが集まってくる。あがり症の内気なゾウ、荒んだ家庭環境のゴリラ、家事に追われる主婦のブタ……。この映画では「恐怖に負けて、夢をあきらめるな」というメッセージが明確に放たれます。
「恐怖」とは、挫折の不安、恥をかくこと、環境や他者のせいにする弱さ。すべては自分自身との戦い。自己実現にまつわる助言として、これほど真ん中を射抜いているものはないと思います。また定番と流行の両方を踏まえ、平易ながら音楽好きのツボを押さえた選曲センスが素晴らしい!



邦画 『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』
昨年は『ちはやふる-上の句-』を選んだので、二年連続「広瀬すずシリーズ」ってのもどうかと思いますが(笑)、ちょうど思春期~青春期のさわやかな自己実現を主題とした役柄を託されている時期なのだろうと。これは実話がベース。
レペゼン福井の高校チアリーダー部が、全米チアダンス選手権で優勝するまでのお話。オチが最初からわかっているからこそ、努力の過程が丁寧かつパワフルに描かれます。明確な目標のため、チームで強くなるため、時にはシビアな判断が下ったり。これって「プロ意識」の雛形じゃないのかなと思いました。『鈴木先生』や『俺物語!!』などの職人、河合勇人監督のポップな演出力も光ります。

落合有紀さん

洋画 『SING/シング』
『SING/シング』は16年のヒット作『ペット』と同じスタッフが製作。町とキャラクターを一気に紹介するオープニングや、気の利いたせりふ、センスある選曲がいい! 引っ込み思案な息子(中3)に「好きなことをしたほうが人生は楽しいよ」とのメッセージが胸に刺さった様子でした。こういうことは親や周囲の大人が言ってもピンと来ないけれど、映画にはそういう力があるのですね。今でもラジオで元歌が流れると「!」と素早く反応したり、受験勉強の合間に観賞しています。気乗りしなかった彼を無理矢理映画館に連れて行った甲斐があったなと,母はコッソリ泣いています。


邦画 『銀魂』
日本映画では目下、続編撮影中の『銀魂』を。パラレルワールドの幕末の江戸で、宇宙人と手を組んだ悪い奴らと剣の達人銀魂と仲間が死闘繰り広げるんですが、原作をまったく知らなくても大丈夫です。なぜかといえば、製作陣と俳優陣が一丸となっておバカとアクションに命を掛けたのがガンガン伝わってくるから。
この2作から好きなことに熱中することの素晴らしさを受け取ってください!

相馬学さん

洋画 『ガーデイアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』
宇宙をさすらう落ちこぼれたちが結束して悪に立ち向かう、そんな痛快なドラマに魅了された、マーベルコミック原作のSFアアドベンチャーの続編。反骨精神や冒険のスリル、笑いなどの前作の魅力をキープしつつ、今回は父子の葛藤のドラマが盛り込まれている点が妙味。
父を知らずに育った主人公スターロードの実父への憧れや、育ての親への思い、そして双方の親の愛し方が背景でバトルロイヤルを繰り広げて感情を揺さぶり、気づけばしっかり泣かされた。宇宙最凶のアライグマ、ロケット君の身勝手さからの成長のエピソードも妙味。

邦画 『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』
福井の県立高校のチアダンス部が、全米選手権で優勝するという実話をベースにした映画だが、コミックのようにテンポがよく、ギャグも笑える。それでいてリアリティも備えており、現代っ子たちのナイーブな感情の描写に“あー、ウチの子もこんなだなあ”と思えた。何より、スポ根ドラマにあるべき要素がきちんと備わっているのがいい。友情やライバル心はもちろん、普段は鬼のように厳しいコーチがふともらす名言にもアツくなる。ヒロイン、広瀬すずの快活な個性もチャーミングで、十代に支持されているのも納得。


金原由佳さん

洋画 『ブレンダンとケルズの秘密』
世界で最も美しい本と言われ、アイルランドの国宝である「ケルズの書」を題材にした作品です。監督のトム・ムーアはアイルランドの伝承を題材にしたアニメーションで高い評価を受けていて、これがデビュー作。一昨年、日本では先に、北欧神話やアザラシの妖精の話を現代風にアレンジした『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が公開されています。
本作の舞台は9世紀、当時のアイルランドは北欧バイキングの侵略と略奪に苦しんでいた時代。主人公であるブレンダンは赤ん坊の時に両親を亡くし、修道院で暮らす12歳の修道士。保護者である叔父はケルズ修道院長で、バイキングの襲来に備え、ここ数年は修道院を囲むように高い壁の建設に余念がない状態です。

史実をモチーフにしたアニメ-ションで、前半の修道院はレンガの土色。それはブレンダンの退屈な心の色でもあるのですが、その単調な日々の色に、バイキングから逃げてきたアイオナ島のエイダン修道士が持つ美しい聖書の写本の中に描かれた緻密で美しい文様や、文様を描くために足を踏み入れる森の緑など、多彩な色が増えていくのを、緑を基調とした光あふれる映像で見せていきます。
何より楽しいのは、ケルトの妖精で、ブレンダンの親友になるアシュリン。オオカミの妖精だけど、状況に応じて猫に化けたり、様々な形へと姿を変えながら、ブレンダンの苦難を助ける存在になります。
こういう妖精の存在は、子供にとっては幼い期間を多彩に彩るイマジナリーフレンド(空想上の友達)だと思うのですが、そこに神話や伝承が加わることで、文化となっていく。本作は、ブレンダンがエイダン修道士から引き継ぐケルズの書の後日談に至るまで、想像豊かに物語を拡げ、文化財が生まれてから現在に伝わるまでの時間や歴史についても考えさせられる内容になっています。
また、民を守るために壁を作ることを第一にする叔父さんと、文化を守るためにとにかくケルズの書をもって逃げぬくことを考えるエイダン修道士と、それぞれの「守る」の立場や態度の違いについて、どう考えるのか、そういうことも家族で話し合いができると、子供を取り巻く世界についての認識を深める一本になるかと思います。


邦画 『夜明け告げるルーのうた』
この映画の題材はアンデルセンの「人魚姫」をモチーフにしていて、人魚の少女と中学生男子、カイが出会う物語です。ただ、ディズニーの『リトルマーメイド』や香港のチャウ・シンチーによる実写映画『人魚姫』と違い、人魚の生態や内面に深くアクセスすることはなく、一体、人魚とは何なのか、かなり謎が残る作りになっています。そしてそのよくわからなさが、子供と一緒に「人魚とは何なのか」を考えさせる内容になっています。
宮崎駿監督が『崖の上のポニョ』を発表したのは2008年。あの作品のポニョは「さかなの子」とされ、彼女は助けてくれた5歳の宗介と生きることを選ぶ、いわば海との共存を高らかに歌い上げた全面的に明るい作品でしたが、2011年の東日本大震災の後に作られたこちらの作品では、海はときに人間の英知を越えた怖いもの、そして何かしらの不幸なタイミングと重なると、人の命を飲み込む厳しい自然としても描かれます。死という題材にも触れているので、自分の子をこの作品に出合わせるタイミングは親の方で図る必要もあるかもしれません。

両親の離婚によって、東京からひなびた漁師町、日無町へと移住してきたカイは海に慣れていないし、泳ぐこともできない。でも、そんな彼が人魚のルーと出会い、彼女の天真爛漫さに触れて、海というものに慣れていく。海と付き合うには、人間の方も泳げる準備が必要だし、やはり海に飲み込まれない工夫や心構えが必要。
カイという名前は「人魚姫」と同じアンデルセン童話「雪の女王」のカイ少年と重なりますが、あの作品と同じく、こちらも周囲の人の呼びかけで、カイの凍っていた心がゆっくりとほぐれていく様を描いています。
「雪の女王」はディズニーの大ヒット作『アナと雪の女王』のオリジンとなっていることで知られていますが、もっとさかのぼると1957年のロシアの名作アニメ『雪の女王』に辿り着きます。
カイが作家によってどんな味付けで描かれるのか見比べるのも、面白いと思いますし、こういう繋げていく知的好奇心を子供には育んでほしい。なお、湯浅正明監督は昨年『夜は短し歩けよ乙女』でも京都の大学生を題材にした「ボーイミーツガール」の物語を発表しています。こちらも中学生になったらぜひ、見てほしいです。

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