
「メアリと魔女の花」
Text by Yamoto Rico 矢本理子
以前、〈こども映画図書館〉でご紹介した「借りぐらしのアリエッティ」や「思い出のマーニー」の米林宏昌監督の最新作「メアリと魔女の花」が完成し、7月8日から日本全国で上映が始まりました。これは、スタジオジブリから独立した米林監督とプロデューサーの西村義明氏が設立した新しいアニメーション会社スタジオポロックの、長編第一作です。
映画の原作は、メアリー・スチュアートの『小さな魔法のほうき』という児童書で、1971年にイギリスで出版されました。これまで、この物語を知らなかった私は、さっそく買ってきて読んでみました。短いお話ですが、とても魅力的な冒険活劇ですので、今日はこの児童書をご紹介しましょう。
物語の主人公はメアリ・スミスという、ごくありふれた名前の10歳の女の子。ある夏、両親は仕事で海外へ出かけ、5歳上の双子の兄妹は友人の農場に招かれたのに、メアリだけ、たった一人ぼっちで、田舎にあるシャーロット大おばさまの赤い館に預けられてしまいます。大人しか居ない館で退屈な日々を過ごしていたメアリは、ある日、ティブという名の緑色の目をした黒猫を追いかけるうちに、森の奥で、むらさき色の釣り鐘状の花を一房、見つけます。庭番のゼベティさんに見せると、それはこの森にしかない、しかも7年に1度しか咲かない“夜間飛行”という珍しい花で、昔から大勢の人が探し求めている“魔女の花”だと言うのです。うっかり指先で花の一つを潰してしまったメアリは、その汁を、庭に置いてあった小さなほうきで拭います。すると、そのほうきが突如ぴょんと動きだし、メアリとライムの木から飛び乗ったティブを乗せて、空高くへ、いっきに飛びたちました。
今から約45年も前の児童書ですが、空飛ぶほうき、魔法大学、すがたを消す呪文、生徒たちが青い液体やらフレスコで実験に取りくむ怪しげな教室・・・といった、魔女や魔法学校に関するワクワクする描写で満ちあふれた、楽しい作品です。本作に登場する、メアリが入学を許可されたエンドア大学が、ハリー・ポッター・シリーズの魔法学校ホグワーツのモデルになったという説もあるようです。

私は、この物語の最大の魅力は、主人公のメアリがごく普通の女の子で、「たった一晩しか魔法を使うことができない」という設定にあると思います。メアリはエンドア大学の秘密を知り、そこに捕われてしまったティブやほかの動物たちを助けるために、再び、“夜間飛行”とほうきの力を借りて、エンドア大学へ向かいます。魔法の力が失われる前に、メアリはみんなを助けることができるのか、ページをめくる手が止まりません。
さて、映画版の「メアリと魔女の花」ですが、こちらは原作に新たな要素が加わり、より複雑な冒険ファンタジーに仕上がっていました。小さなほうきがメアリとティブを乗せて雲の上を飛びまわるシーンや、生徒たちが空飛ぶ絨毯や不思議なカプセルで校内を移動する賑やかなエンドア大学の様子など、アニメならではの楽しい映像と、スピーディな展開が魅力的です。そして忘れてならないのは、原作には少ししか登場しない「ある人物」が、映画版には意外な姿で現われ、とても重要な役目を果たすことです。「メアリと魔女の花」は、この物語を既にご存知の方も、初めての方も、双方が楽しめる良質なエンターテイメント作品です。この夏休みに是非、メアリとティブと共に、ほうきの冒険に出かけてみてください。
©2017「メアリと魔女の花」製作委員会