ローラ・インガルス・ワイルダー生誕150周年「大草原の小さな家」

ローラ・インガルス・ワイルダー生誕150周年
「大草原の小さな家」

Text by Yamoto Rico 矢本理子

私が小学生だった頃、「大草原の小さな家」というテレビドラマが放映されていて、毎週末、姉と2人で、テレビにかじりついて見ていました。このドラマは、アメリカでは1973年にスタートし、日本では1975年から1983年まで放映された、人気シリーズでした。この番組がお気に入りだった私たち姉妹は、母にせがんで、ドラマに登場するローラやメアリーが持っていたような布製の素朴な人形を作ってもらい、着せ替え用のドレスも沢山縫ってもらって、子ども部屋を開拓農家に見たてて、“大草原の小さな家ごっこ”をして遊んだものです。

「大草原の小さな家」の主人公ローラ・インガルス・ワイルダーは、1867年2月7日に、ウィスコンシン州のペピン郡で生まれた実在の女性です。今年は彼女の生誕150周年にあたります。実は夏目漱石も、同年の2月9日に生まれています。日本はちょうど、明治維新の頃ですね。

大きな森の小さな家 ―インガルス一家の物語〈1〉 (福音館文庫 物語)
大きな森の小さな家 ―インガルス一家の物語〈1〉 (福音館文庫 物語)

同名シリーズ第一作『大きな森の小さな家』が1932年に出版されるやいなや、大ベストセラーとなりました。この本には、森の中の小さな丸太小屋で暮らしたローラの少女時代が、生き生きと描かれています。出版時、ローラは時に新聞にコラムを書くことはありましたが、ミズーリ州の農場で暮らす主婦でした。彼女は、ジャーナリストだった娘ローズ・ワイルダーの勧めで、この半自叙伝を書いたのです。当初は父の思い出のために1冊だけ書くつもりだったようですが、読者からの大反響を受けて、次々と続編を書き上げ、最終的には9巻(※)におよぶ長大なシリーズが出版されました。

小説の舞台は、1860~1880年代のアメリカ合衆国の中西部。南北戦争が終息を迎えた頃で、いわゆる開拓時代にあたります。ヨーロッパ各国から新大陸へ渡ってきた移民たちの多くが、まだ見ぬ新天地を求めて、幌馬車で西へ西へと移動していました。もちろん、その陰では、沢山のインディアンの部族が、何世紀にもわたって住み続けてきた土地を追われてしまったのですが・・・。ローラが育ったのは、アメリカに様々な変化がもたらされた時代でした。モールスが発明した信号が実用化されて、東海岸とヨーロッパでは通信が始まり、東海岸の諸都市からは、西側の大平原にむかって鉄道が延びつつありました。新しい町がそこかしこで建設され、新聞社はアメリカ各地のニュースを、雑貨屋は目新しい商品を次々と売り出しました。酒屋やホテルが建設される一方、宣教師たちは布教のために、開拓民よりも先回りして各地に乗り込み、教会を建てました。私たちは、ローラが書き残した克明な記録によって、約150年前のアメリカ中西部の人々の暮らしを、まるで目の前で見ているかのように追体験することが出来るのです。

わが家への道―ローラの旅日記―ローラ物語〈5〉 (岩波少年文庫)
わが家への道―ローラの旅日記―ローラ物語〈5〉 (岩波少年文庫)

いま振り返ると、私は『大草原の小さな家』シリーズの影響を多分に受けています。開拓民の自主独立の気風や、必要なものは自ら作るDIY文化、困った人がいたら互いに助け合うボランティア精神、そしてピューリタリズムの影響でしょうか、勤勉さや正直であることが求められていた当時のアメリカ人の暮らしぶりに、感動したのです。こうしたアメリカの古き良き時代についての知識は、その後、私が高校時代にアメリカに留学した際、大いに役に立ちました。『大草原の小さな家』のメッセージは、今でも全く色あせていません。むしろ、本当の豊かさとは、お金や物ではなく、人と人の繋がりや、自然との調和などにあることに気がつき始めた現代人にこそ、この本は、よりいっそう響くのかもしれません。

さて、私がこの物語で一番好きな人物は、ローラのとうさん、チャールズです。とうさんは明るく前向きな人で、どんなに辛いことが起きても決してくじけず、家族のために困難に立ち向かいます。インガルス一家は貧しかったはずですが、家族の絆は強く、日々を楽しく生きるために皆が助け合っていました。そんななか、家族を元気づけるために、時にとうさんが弾くヴァイオリンの音色に、心惹かれます。彼が奏でたのは、どのような音楽だったのでしょう? 今でも時々、聴いてみたくなります。

先日、『大草原の小さな家』が映画化されるというニュースを聞き、ちょっと興奮しました。この長い小説のどの部分を映画にするのかは興味津々ですが、今からとても楽しみです。全部で9巻におよぶ原作シリーズを読み切るのは、なかなか根気がいりますが、私もこの機会に、再度、挑戦してみようと思っています。

大草原の小さな家シーズン 1 バリューパック [DVD]
大草原の小さな家シーズン 2 バリューパック [DVD]
大草原の小さな家シーズン 3 バリューパック [DVD]

※私が読んだ『大草原の小さな家』シリーズは、福音館書店から出ている前半5冊と、岩波少年文庫から出ている後半の4冊です。なお、『最初の四年間』は、ローラの死後、本人の遺稿を元にして出版されました。また番外編として、ローラと娘ローズの原稿を元にした、『わが家への道 ローラの旅日記』が、1983年に岩波少年文庫から発行されています。

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