
「劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション」
70年間愛されるムーミンの秘密
フィンランドの作家トーベ・ヤンソンが書いた「小さなトロールと大きな洪水」の出版から今年で70年を迎えます。TVアニメや映画など何度も映像化され、アニメでムーミンを知ったという方も多いのではないでしょうか。
8月9日の「ムーミンの日」(トーベ・ヤンソンの誕生日)を前に、70年間愛され続けるムーミンの魅力について、本の編集に長く携わってこられた講談社の横川浩子さんにお話を伺いました。
日本で初めてムーミンのお話が紹介されたのは、50年前の1964年で、世界児童文学全集の北欧編の一編として、「ムーミン谷の冬」が掲載されました。同じ本に、「長くつ下のピッピ」も掲載されていたそうです。ちなみにピッピも今年が出版70周年にあたります。本にはトーベが描いた挿絵ではなく、日本人の画家池田龍雄さんが描いたものが使われました。
翌65年に日本でもトーベの挿絵付きで「たのしいムーミン一家」が出版されます。この作品は、児童文学としての完成度が高く、読者をぐいぐいと引っ張っていく楽しさに満ちています。

「楽しいムーミン一家~ムーミン編」 VIBG-5076 2,000円+税
楽しいムーミン一家の中から厳選したお話5話を収録。一癖も二癖もあるキャラクターがムーミン谷で繰り広げるとんでもなく愛おしい物語。
©Moomin CharactersTM ©Moomin CharactersTM / Animation ©Dennis Livson
54年からロンドン・イブニングニュースというイギリスの日刊紙で始まっていたコミック連載によって、ムーミンは世界的に知られるようになり、69年には日本でTVアニメーションの放送も始まりました。コミックの連載は60年以降、トーベの弟ラルスに引き継がれ20年にわたって続きました。このコミックを原作とするのが、最新アニメーションの「劇場版ムーミン 南の海でたのしいバカンス」です。

「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」
8月5日Blu-ray&DVDリリース 通常版DVD ¥2,800+税
発売・販売:バップ
提供:2014「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」フィルムパートナーズ
© 2014 Handle Productions Oy & Pictak Cie © Moomin Characters™
トーベが書いた長編の2作目にあたるのが「ムーミン谷の彗星」です。彗星が地球に衝突するのではないかという事件から物語は始まりますが、みんなで危機を乗り切りハッピーエンドを迎えます。この作品はトーベが日本に投下された原爆に影響を受けたとも言われています。「彗星衝突や大洪水といった大きな危機にあっても、ムーミンたちはいたずらに騒ぎすぎずに力を合わせて、時にはちょっぴり楽しみながら、乗り越えていく。なんとかなるという前向きな姿から、子どもも大人もさまざまなことを感じとれると思います。」と横川さんはおっしゃいます。
そして、この本を原作にして作られたアニメーションが「劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション」です。トーベ・ヤンソン自身が脚本や人形づくりに深くかかわった作品として知られています。

「劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション」通常版 3500円+税
販売元: ビクターエンタテインメント
© Filmkompaniet / Filmoteka Narodowa / Jupiter Film / Moomin Characters™
初期の本は、ムーミントロールたちの冒険を描いていますが、57年の「ムーミン谷の冬」以降、そのトーンは変わり、より内省的、哲学的なものになっていきます。
「『ムーミンパパ海へいく』や『ムーミン谷の十一月』など、子どもには難しいと思われるかもしれませんが、分からないなりに心に“ひっかかり”や“強い印象”を与える作品で、大人になって読み返すと、また新たな解釈や理解を得ることができます。それがムーミンの大きな魅力となって、長年愛されてきた理由のひとつだと思います。」と横川さん。「トーベは9才から99才に向けて書いていると言っています。そして完成度の高い作品を作ろうと、推敲を重ね、努力を惜しみませんでした。」
「ムーミンのもう一つの魅力は、物語が開かれていて、読者が自分の想像力を働かせて楽しむ余地があることです。トーベには遊び心がありました。物語にはあいまいさがあり、『あらゆるものが不確か』というトーベの考えが影響していると思います。トーベのものの見方は、自然を敬い八百万の神を信じてきた日本人には共感しやすいのではないでしょうか。またフィンランドは多くの森と島を持ち、海に囲まれた土地柄から、日本との共通点も多いのかもしれませんね。」

作・絵:トーベ・ヤンソン, 訳:下村隆一 講談社刊
ムーミンはその不思議な物語、ユニークな登場人物はもちろんですが、挿絵なしにその魅力を語ることはできません。「挿絵は子どもが本を読み、理解するうえでも大きな助けになります。最近ではムーミンの絵がついた商品がたくさん販売されていますが、本を読んでこそ、その絵の持つ本当の意味や魅力に気づくはずです。かわいいキャラクターというだけでなく、深いメッセージを持った本の世界をぜひ体験してください。」
最後に親子でムーミンを楽しむアイデアを横川さんに伺いました。「子どもに毎晩ムーミンの読み聞かせをしているという知り合いがいます。お子さんは小学生で、自分で読むこともできますが、“聞く”のも大切な本との出会いです。親子のコミュニケーションとしても素晴らしいですし、聞くことで、また違った想像力の広がりが生まれるんですよ。」
この夏、原作やアニメーションを通して、ムーミンの豊かな世界に親子でぜひ触れてみてはいかがでしょうか。