
『野火』7月25日(土)公開 公式HP http://nobi-movie.com/
©SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER
『野火」塚本晋也監督インタビュー
「正しいトラウマで、戦争を憎む心を育てる」
今年は第二次世界大戦の終戦から70年の記念の年にあたります。戦後世代が人口の80%を占める今日、戦争文学の代表作『野火』を映画化した塚本晋也監督に、作品について、次世代に戦争の記憶を伝えることについて、お話を伺いました。
小説「野火」との出逢いと映画化への道のり
大岡昇平がフィリピンでの戦争体験を書いた1951年発表の小説「野火」。塚本監督が初めて読んだのは、高校生の時だったそうです。「国から捨てられて死ぬまでの短い時間、手つかずの美しい自然の中に放り込まれる。しがらみから解放されたような一兵士に高校生だった自分の気持ちが強く共振した」とおっしゃいます。「小説は後半、地獄のようになっていきますが、前半で共感しているので後半にものめり込みました。」その頃すでに8ミリで映画を作っていた塚本さんは、この作品をぜひ映像化したいと考えるようになります。
『鉄男 TETSUO』(89)で衝撃的なデビューを果たした塚本さんは30代に入って「野火」の映画化に取り組み始めます。釜山映画祭の助成金や、海外の出資者などにも呼びかけますが内容の激しさから、なかなか資金が集まりません。3年前、「昭和には戦争がいやなものだという共有がありましたが、そういう意識が薄らいできて、時代の空気感があやしくなっている」と危惧した塚本さんは、「戦争に向かおうとする今作らなければ、映画化が不可能になってしまう」と、映画を見切り発車させることにします。

戦後世代が伝える戦争への憎しみとは?
「戦後世代が戦争を描くことは、難しくなかったのでしょうか?」との問いに、塚本さんはこう答えます。「自分に戦争体験がないからこそ、戦争体験のある大岡昇平さんの書いた「野火」を映画にしようと思いました。先人の作品に近づく形でやろうと思ったのです。原作を読み込んで、85才のフィリピン戦を生き延びた方にもお話を伺いました。直接お話しを聞くことができるのも、あと数年という思いもありました。」さらに、「かろうじて自分は直接体験を聞くことができましたが、これからどうやって戦争の痛みを表現していくのか難しくなってきていると思います。ただ僕はこの映画を、戦争がいいとか、悪いとかを描くプロパガンダ的なものにしたくないと思いました。死体が地面に累々とある。するとそれはもう人間ではなくて、物になってしまっている。そういうことを表現したいと思いました。見た人に戦争がいやなものだと理屈でなく、感じて欲しい。それはむしろ音楽を聴くのに似た体験になればいいと思っています。戦争に近づきたくないという思いが伝わることを目指しています。」と続けます。
また戦争を知らない親が子供に戦争をどう伝えればいいのかについて、塚本さんは、「僕の祖父や親も戦争の話はあまりしませんでした。ある時学校の宿題で親の体験を聞いて作文にするという課題が出たことがあります。そのとき知らない話をいろいろ聞いたのは貴重な体験でした。課題がなければ知らずにいたことだったと思います。映画もそんな親子で話すきっかけになるといいのではないでしょうか?」と語ります。
”いいトラウマ”が戦争を憎む心を育てる
『野火』は映倫審査で12才以下の子どもが鑑賞する場合には、保護者の同伴が必要なPG12になりました。「子どもは、ひとりひとり違うので、何才で見せるかは親御さんが自分で判断することが大切」と塚本さんはおっしゃいます。小学生の時に「はだしのゲン」と出会った塚本さんは、「僕は見ておいてよかった。被ばくして指が溶け、ガラスの破片が顔につきささる・・・そんな場面が、いい意味でのトラウマになったからこそ、戦争への憎しみを持つことができました。恐怖に触れたからと言って、子どもは崩壊したりしません(笑)。戦争映画を見ていると、人間の本性が見えてきます。現実社会にはどぎついものがあるのだと知りました。そういうものが心に強く刻みつけられて、成長していくことが大切だと思います。『野火』を見て、いいトラウマになるといいと思っています。」
最後に塚本監督に親子で見て欲しい戦争映画を3本ご紹介いただきました。
『火垂るの墓』
「不朽の名作です。子どもの悲惨さが記憶にありましたが、今回見直してみて大人たちが悲惨な現実に立ち向かおうとせず、ただただ受け入れていることに衝撃を受けました。大人たちが死んでいく子どもを、まるで粗大ごみか何かのように、茫然と見ていることに驚きました。」
『はだしのゲン』
「悲惨な現実を子どもに見せることをためらう大人もいますが、僕には理解できません。そんなシーンから目を背けてはいけない。ショックを受け、混乱して「戦争とは何だろう」と考えることこそが大切。原作漫画もぜひ読んでください。トラウマ漫画の傑作です。こういう作品を見ないで、ボーっとした子供になっちゃうと、戦争に巻き込まれて命を落とすことになる。見ておくことが大切な体験です。」
『プラトーン』
「オリバー・ストーン監督が体験したベトナム戦争を描いた映画です。劇映画ながら、真実味という強さがあります。混沌とした悪に飲み込まれる戦場の迫力に圧倒されました。日頃目にしないところで、わーこんなことが起きているのかと知るきっかけになるといいと思います。」

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