劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス

「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」と
「トーベ・ヤンソン展~ムーミンと生きる~」

日本で大人気のアニメーションの一つに、「ムーミン」があります。1969年にテレビ放映され、当時の子どもたちをとりこにしました。1991年には新版アニメーション「楽しいムーミン一家」が製作され、また来年2月には、新作映画「ムーミン 南の海で楽しいバカンス」も公開されます。ムーミンは世代を越えて、多くの人々を魅了しているのです。本国フィンランドでムーミンの原作シリーズの第1作目「小さなトロールと大きな洪水」が出版されたのは、1945年のことでした。続編も次々と出版され、1970年に最終作「ムーミン谷の十一月」が刊行されるまでに、全部で9冊の本が出版されました。イギリスで出版された「楽しいムーミン一家」が人気を呼び、漫画も刊行され、やがて原作シリーズが世界各国で出版されることになりました。

「小さなトロールと大きな洪水」トーベ・ヤンソン著 講談社刊

ムーミンの魅力は、主人公のムーミントロールをはじめとする個性豊かな登場人物たちと、森や海や洪水といった厳しい自然描写、そして普遍的な物語にあると思います。ムーミン谷を舞台に、妖精や架空の生き物しか登場しないファンタジーであるにも関わらず、私たちがムーミン世界の登場人物たちに特別な親しみを感じるのは、彼らを、私たちの身近にいる人々に重ねあわせることが出来るからではないでしょうか。実際、ムーミンパパとムーミンママはトーベの両親、トゥーティッキは親友トゥーリッキなど、何人かの登場人物たちには実在のモデルが存在しています。私は個人的に小心者のスニフがお気に入りです。宝石や光るものが大好きで、ちょっぴり我がままですが、その良い子じゃないところが、逆に憎めないのです。

「ムーミン谷の十一月」トーベ・ヤンソン著 講談社刊

さて、それでは、ムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンとは、どのような人物だったのでしょうか? 今年はトーベの生誕100周年にあたります。このことを記念した、「トーベ・ヤンソン展 ~ムーミンと生きる~」が、現在、横浜のそごう美術館で開催されています。トーベ・ヤンソンは、1914年にヘルシンキで生まれました。父はスウェーデン系フィンランド人の彫刻家、母はスウェーデン人の挿絵画家でした。彼女自身も早くから画家を目指し、ストックホルムやヘルシンキの美術学校、イタリアなどで絵画を学び、10代の頃から既に画家として活動を開始していました。トーベの青春時代はフィンランドの戦争の時代と重なっていました。母シグネが描いていた政治風刺雑誌『ガルム』の挿絵を、戦争に反対していたトーベも担当するようになり、やがて彼女が表紙絵も手がけることになりました。1940年代前半に発行された『ガルム』の表紙には、ムーミンによく似た、しっぽのある小さな動物が描きこまれています。彼女にとってムーミンのキャラクターは、既に分身のようなものだったのですね。


劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス © 2014 Handle Productions Oy & Pictak Cie © Moomin Characters™

日本では作家として知られているトーベ・ヤンソンですが、本国では画家としても有名です。今回、私は、トーベが描いた50点あまりの油彩画に圧倒されました。その多くは自画像ですが、家族や親しい友人を描いたもの、独特な色あいの風景画、荒々しいタッチの抽象画など、魅力的な絵が沢山ありました。自画像の中のトーベは常に口元をきりりと閉じていて、強い意志を持つ女性であったことがうかがえます。面白いのは、トーベがスウェーデン語版の「不思議の国のアリス」や「ホビットの冒険」といった児童書の挿絵や装丁も手がけていたことです。とりわけ、「ホビットの冒険」は彼女のお気に入りの本だったそうで、ムーミンの原作本の巻頭に地図が描かれているのも、その影響なのかもしれません。これらの児童書の原画は、ムーミンとは全く違うタッチで描かれており、多才なトーベの一面に触れることができます。

横浜の展覧会の開催期間は少し短めですが、ムーミンファンの皆さんには、ぜひ観に行ってほしいと思います(その他の地域も巡回予定)。そして展覧会を観た方は、2月には映画を楽しんで、ムーミンの原作シリーズを再読してみて下さい。きっと今までとは違った視点で、豊かなムーミン世界を追体験することができるでしょう。

劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス © 2014 Handle Productions Oy & Pictak Cie © Moomin Characters™

2/13(金)より全国ロードショー 劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス
公式HP
トーベ・ヤンソン展~ムーミンと生きる~
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