
「アナと雪の女王」
矢本理子(Rico Yamoto)
デンマークのアンデルセン童話に、「雪の女王」というお話があります。主人公は少年カイと少女ゲルダ。幼なじみの二人はいつも一緒でしたが、ある日カイは、雪の女王に連れ去られてしまいます。ゲルダはカイを探しに、たった独りで旅に出ます。彼女の純真な心と強い信念は周りの人や動物たちを動かし、森のカラス、王女さま、山賊の娘、ラップ人のおばさんたちが、次つぎとゲルダに手を差しのべてくれます。長い旅の末、トナカイに連れられて北の果ての雪の女王の城に辿りついたゲルダは、ようやくカイと再会し、彼女にしかないある力によって、彼を救い出すのです・・・。

今日は、この「雪の女王」を原案とし、大胆に脚色したアニメーション、「アナと雪の女王」をご紹介しましょう。本作はディズニーの創立90周年を記念して製作されたミュージカル映画で、すでにアニー賞やゴールデン・グローブ賞、そして先日のアカデミー賞でも長編アニメーション賞を受賞した注目作です。
「アナと雪の女王」の主人公はアレンデール王国の二人の王女、エルサとアナ。長女のエルサには生まれつき不思議な能力がそなわっていました。彼女は触るものを凍らせ、雪を生みだすことが出来たのです。姉妹は仲良しでしたが、ある日エルサは誤って、アナに怪我を負わせてしまいました。幸い助かったものの、アナは記憶の一部を無くしてしまいます。以来エルサは、二度と妹を傷つけないため、そして自分の力をコントロールするために、城の一室に引きこもります。でも事情が分からないアナは、姉の態度が急変したことに戸惑います・・・。
十数年後、新女王エルサの戴冠式が開かれることになりました。周辺国から続々と来賓が到着します。再会を喜ぶ姉妹でしたが、それもつかの間でした。アナが突然、南諸国のハンス王子と結婚すると宣言したため、困惑したエルサは自らの感情を抑えることができず、秘められてきた魔法の力を、ついに大勢の人の前で使ってしまうのです。夏だった王国は突然、白銀の世界に変わってしまいました。何が起きたのかがわからない王国の人々や外国からの来賓たち、アナを残して、エルサは城から逃げ出します。そして、たどり着いた雪山の山頂に、自らの魔法で雪の宮殿を築き上げるのです。

これまでのディズニー映画とは異なり、本作には二人のヒロインが登場します。優雅なエルサと、明るいアナです。アンデルセン童話の雪の女王がエルサ、ゲルダがアナのモデルになっています。しかしエルサは、童話に登場する冷たい雪の女王とは違います。彼女は自分の能力を恐れ、長年、自分をおさえて生きてきた苦悩する人です。そんなエルサが歌う「Let It Go」には心打たれます。この歌はアカデミー賞の主題歌賞を受賞したのですが、エルサが生まれて初めて解放感を味わい、自分自身を取り戻した瞬間を伝えてくれる名曲だと思います。一方、妹のアナは、ゲルダと同じように一途な女の子です。元気で活発なアナは、少しおっちょこちょいな面もありますが、なんといっても行動力があります。思い立ったらすぐに動き出すアナは、大好きな姉を探し出すため、独り雪山に向かうのです・・・。

そんなアナを、山男クリストフやトナカイのスヴェンと共に助けてくれる謎の雪だるまが、オラフです。今回、私は、このオリジナルキャラクターである陽気なオラフに魅了されました。三つの雪のかたまりと小枝の手、にんじんの鼻をもつオラフは、暖かい太陽や夏に憧れている、ちょっと変わった雪だるまです。人懐っこいオラフは、ハグが大好き。誰とでもすぐに打ち解けるし、どんなに困った状況でも、決してへこたれません。雪で作られたとは思えないほど熱血漢であるオラフは、ピンチだったアナに、「愛とは、自分より相手のためを想うこと」という大切なメッセージを伝えます。ある意味、オラフの出生の秘密が、絶体絶命だったアナとエルサを助けたといっても過言ではありません。皆さんも映画をご覧になったら、きっとオラフが大好きになるでしょう。
また、この映画の見どころは、全編に散らばる多彩な雪の表現にもあります。スタッフたちは雪の特質を知るために、ワイオミング州で自ら深雪を体験。雪博士のアドバイスを受けて、異なる質感の雪を表現できる専用ソフトを独自に開発しました。映画には、形が異なる2000種類もの雪片が使われているそうです。
実は、「アナと雪の女王」は、これまで私たちが観てきた数多くのファンタジー映画とは全く異なる展開をみせてくれます。一体アナを救うのは誰なのでしょうか? そして雪に閉ざされたアレンデール王国は、元の季節を取り戻せるのでしょうか? 物語がどのような結末を迎えるのか、それは観てのお楽しみです。皆さんも是非、映画館へ足を運んで、確かめてみて下さい。
©2014 Disney
○「雪の女王」(ハンス・クリスチャン・アンデルセン著
2003年、福音館文庫)
矢本理子(Rico Yamoto)
東京うまれ、茨城県そだち。大学では社会学と歴史学を、大学院では西洋美術史を学ぶ。
1995年に岩波ホールへ入社。
現在は宣伝を担当。
【過去の記事】
≫「ヒューゴの不思議な発明」
≫「床下の小人たち」
≫「グスコーブドリの伝記」
≫「ピーター・パン」
≫「本へのとびら ― 岩波少年文庫を語る」
≫「白雪姫と鏡の女王」
≫「009 RE:CYBORG」
≫「シルク・ドゥ・ソレイユ」
≫「ホビット 思いがけない冒険」
≫「レ・ミゼラブル」
≫「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」
≫「オズ はじまりの戦い」
≫「舟を編む」
≫「パパの木」
≫「コン・ティキ」
≫「少年H」
≫「本と旅する 本を旅する」