ここが知りたい!子どものための小津映画入門!

ここが知りたい!子どものための小津映画入門

今年は小津安二郎が生まれて110年、亡くなって50年の記念の年にあたります。英国映画協会が2012年に実施した世界の監督358人による世界のベスト映画の選考で、「東京物語」が一位に選ばれるなど、時代を超えて愛される小津作品。その人気の秘密について東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員の岡田秀則さんに教えて頂きました。

Q1 今から何年前のどんな時代を生きた人?
Q2 どんな子どもだったの?
Q3 小津安二郎ってどんな人だったの?
Q4 小津映画のトレードマークって何?
Q5 どんな映画を作っていたの?
Q6 これまで小津の映画ってどのように考えられてきたの?
Q7 子どもがはじめて見るならどれがおすすめ?

Q1:今から何年前のどんな時代を生きた人?

今から110年前の1903年12月12日に東京深川で肥料問屋を営む両親の二男として生まれました。兄弟は兄、弟一人、妹二人の五人でした。
同じ1903年生まれには、宮崎駿監督の『風立ちぬ』の主人公である堀越二郎や、「ちいさい秋みつけた」などで知られる詩人のサトウハチローがいます。関東大震災、世界大恐慌から第二次世界大戦を経て、戦後の復興、経済発展と目まぐるしい時代を生き、1963年、ちょうど60才の誕生日に亡くなりました。

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Q2:どんな子どもだったの?

小津は子どもの頃は、絵を描くのが好きな少年でしたが、無声映画の大人気スターだった尾上松之助の映画を見てから、すっかり映画に魅せられ、学校をさぼってまで映画館に熱心に通っていました。また本を読むのも好きで日本の小説をよく読んでいました。
小津は14才の頃、アメリカ映画『シヴィリゼーション』(監督トーマス・H・インス)を見て、映画監督になろうと決心します。高校卒業後、1年間学校の先生をつとめた後、知り合いの紹介で松竹の蒲田撮影所に入社し、1925年『懺悔の刃』という時代劇で監督デビューを果たします。

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Q3:小津安二郎ってどんな人だったの?

小津はとってもおしゃれな人でした。チャコールグレーのズボンにいつも白いシャツを着て、撮影の時はピケ帽という帽子をかぶっていました。
俳優さんたちの衣裳も細かく注文を出して、カラーになってからは、特に女優さんの着物をこだわって選びました。

『彼岸花』衣裳用の参考生地(1958年) 川喜多記念映画文化財団寄託

また絵を描くのが好きだったこともあり、有名な画家の本物の絵を何度も登場させたり、自分の映画の題名や映画に出てくる看板を自ら書いたりしました。
赤い色が好きで、カラーの映画を撮るときには、鮮やかな原色の家具や小道具(やかんなど)をつかいました。また、映画の内容とは直接関係のないようなものを、映画の構図を美しく見せるために、わざわざ置いたりしました。

小津直筆『お早よう』文字デザイン 川喜多記念映画文化財団寄託

そして小津は食いしん坊でした。自分が行った食べ物屋さんを手帳につけていて、後に「小津のグルメ手帳」として知られるようになります。

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Q4:小津映画のトレードマークって何?

小津の映画には、はっきりした特徴があります。その一つはカメラを据える位置が極めて低いことです(ロー・ポジションといいます)。このロー・ポジション撮影は、私たちが見慣れていないために一見不思議な印象を与えますが、画面全体に安定感をもたらし、それによって厳密な構図作りを可能にします。
また、カメラは動かさず、ゆったりした物語でも、不必要と考えたシーンを省略するのがうまかったので、お話はテンポよく進んでいきます。こうした映画作りの方法を、小津はかたくなに守り、自分らしい映画を作ることにこだわり続けました。

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Q5:どんな映画を作っていたの?

ハリウッド映画をよく見ていた小津は、様々な影響を受けたと言われています。それを自分なりに消化して最初の頃は、コメディ、青春映画、時にはギャング映画など様々な作品を作りました。しかし小津が働いていた松竹という会社の方針もあり、徐々にホームドラマを数多く作るようになります。特に晩年は、娘の結婚や親子の関係を、笠智衆や原節子といった同じ俳優を繰り返し使って作るようになります。それもまた小津の映画を特徴づけることになりました。

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Q6:これまで小津の映画ってどのように考えられてきたの?

小津の没後、アメリカやヨーロッパで特集上映され、その独特の映画作りに注目が集まるようになります。ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ、ヴィム・ヴェンダース、侯孝賢といった世界の監督が、小津を尊敬し影響を受けたと話しています。

小津の絵コンテ帖『秋刀魚の味』(1963年)川喜多記念映画文化財団寄託

日本では最初、映画に描かれた古き良き日本の美や、家庭のありようの変化というものに人々の関心が集まっていました。その後、小津独特の美しさへのこだわりと厳密さ、時代や文化とのかかわり、小津の哲学や生き方と、様々な角度から人々は小津の映画を語り始めます。「小津ごのみ」と言われる趣味の良さや、一流を見抜く目といったことにも注目が集まります。今回フィルムセンターで開催される「小津安二郎の図像学」もまた小津と芸術の関わりに光を当てる新たな試みです。

小津の映画はいつの時代も見るたびに新たな発見があり、様々な楽しみ方ができる不思議な映画です。そこに今でも愛されている理由があるのでしょう。
だからこそ子どもたちには自由な目で映画を見て、新たな発見をしてほしいと岡田さんはおっしゃいます。

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Q7:子どもがはじめて見るならどれがおすすめ?

小津は子どもが大好きでした。初期の映画には、いきいきとした腕白小僧がよく登場します。そんな中からおすすめ4本を紹介していただきました。

『小津安二郎 名作セレクションⅤ(DVD-BOX)』DVD発売中 ¥13,000(税別)発売・販売元:松竹 (C)松竹株式会社

突貫小僧
1929年/14分/モノクロ/サイレント 小学校低学年
間抜けな人さらいが子どもをさらったが、子どものわがままに困り果て、結局元のところに戻すことになる喜劇。

大人と子どもの立場が逆転するドタバタコメディ。理屈ぬきに楽しめます。

『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』DVD発売中 ¥2,800(税別)発売・販売元:松竹
(C)1932 松竹株式会社

大人の見る繪本 生れてはみたけれど
1932年/90分/モノクロ/サイレント 小学校低学年
東京郊外の新興住宅地に越してきたサラリーマンの吉井一家。ある日、良一、啓二の兄弟は、上司の家でぺこぺこするかっこ悪い父親の姿を見てしまう。そして、父親を弱虫だと責めるのだが・・。

家の中のお父さんと会社でのお父さんは、意外と違うものですね。大人の世界ってどんなものなのか、想像してみましょう。

『長屋紳士録』DVD発売中 ¥2,800(税別)
発売・販売元:松竹 (C)1947 松竹株式会社

長屋紳士録
1947年/71分/モノクロ 小学校低学年
大道占師の田与が、迷子の男の子・幸平を長屋に連れ帰り、向かいに住む荒物屋のおたねに強引に預けてしまう。おたねは、グチをこぼしながらも、次第に幸平と仲良くなるのだが・・・。

「長屋ってどんなところ?」「親がいないってどういうこと?」、そんな戦争後間もない時期の人々の暮らしについて考えてみてください。

『お早よう ニューデジタルリマスター』ブルーレイ
(2014年)3月7日発売/¥4,935(税込)発売・販売元:松竹
(c)1959/2013 松竹株式会社

お早よう
1959年/94分/カラー 小学校高学年
新興住宅地に住む林一家。ある日、実、勇の兄弟は両親にまだ出始めたばかりのテレビをねだって、叱られたことから、だんまりストを決行することにする。

昭和の暮らしが今とどう違っているか、比べてみましょう。また家の中に置かれたカラフルなものを、探してみましょう。そしてこの映画を見て、皆さんはこの兄弟に共感できますか? 考えてみましょう。

展覧会「小津安二郎の図像学」
【会場】東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(7階)
【会期】2013年12月12日(木)~2014年3月30日(日)
*月曜日および12月28日(土)から1月6日(月)は休室。
【詳細HP】http://www.momat.go.jp/FC/ozu2013/index.html
主催:東京国立近代美術館フィルムセンター 協力:松竹株式会社

(c)松竹