太陽の角度や方位を見る映画の仕事!?

これはサンパスといって太陽の角度と、方位を見る照明技師渡邊さんの七つ道具のひとつです。計測して計算する、ちょっと科学者のようでもある、渡邊さんのお仕事とは?

照明技師 渡邊孝一
1956年福島県生まれ。1985年よりCMで照明技師として独立する。1988年より映画の照明技師として多くの作品に参加。「ピンポン」(03/曽利文彦監督)、「阿修羅のごとく」(04/森田芳光監督)、「おとうと」(10/山田洋次監督)で日本アカデミー賞優秀照明賞を受賞。

きっかけは偶然はじめたアルバイト
渡邊さんは、新聞記者だったお父様がもらう映画の招待券で、映画ざんまいの学生生活を送り、大学入学を機に会津若松から上京。映画が好きだった渡邊さんは知り合いに誘われ、軽い気持ちで照明のアルバイトを始めたそうですが、今では照明の仕事でよかったとおっしゃいます。

七つ道具 モノトーン コントラストを見る

計算が生み出す自然な光
撮影中の場面が、どのようにスクリーンに映しだされるか、完成形を常に計算して、光の配置や分量、方向を決めていくのが照明の仕事です。カメラのフレームに切り取られた小さな画面だけでなく、実際には映らない部分も含めて全体の構成を考えて、光を組み立てます。頭の中ですでにスクリーンに映し出された状態が見えているので、モニターを見なくても、大丈夫なのだとおっしゃいます。しかしそのためには、細部まで気を配って光をデザインしていく必要があるので、きっちりした几帳面な性格の人がこの仕事には向いているそうです。仕事仲間の他の照明さんも几帳面な方が多いともおっしゃいます。

台本を読んで、場面ひとつひとつについて撮影監督さんと打ち合わせをしながら細かく準備していきます。
例えば、比較的コントロールしやすいロケセット(撮影スタジオ以外の室内での撮影場所)での撮影でも、撮影時間が長時間になることが予想される場合は、撮影が夜になっても対応できるようにあらかじめ光を作ったりするそうです。ロケの場合はその場で何ができるか臨機応変にどう対応するかが大切です。

映画の撮影でこの仕事にはまった!
渡邊さんの照明のキャリアはテレビドラマからはじまり、最初は16ミリフィルムで撮影していましたが、日活で映画に携わり35ミリフィルムでの撮影を体験。これがきっかけで、俄然仕事が面白くなり、20代の終わりごろ、金子修介監督の『みんなあげちゃう』(85)で撮影技師としてひとりだちされました。30本以上一緒に仕事をしている撮影監督の浜田さんと組んだ『いつかぎらぎらする日』(92)は刺激に満ち、楽しくてたまらない撮影で、自分が変わるきっかけになった作品だったそうです。

七つ道具スポットメーター
光の反射を見て、フィルムがどのくらい感光しているか調べるもの。

どんな時に照明の仕事の醍醐味を味わえるのですかとの質問に、「音がまだ入っていない映像だけをみるラッシュ試写では、スタッフ全員が映像だけを集中して見ています。そんな時みんなに、いい絵を作れていると言ってもらえた時が、照明技師にとっては何ともいえない瞬間です」と答えてくださいました。

お父さんとの思い出
小さい頃の映画体験をうかがってみると、映画館で初めてみた映画の記憶は小学生の時お父様と一緒に見た『アンコ椿は恋の花』(65)で、大きなスクリーンに映像が映し出されるのに衝撃を受けたそうです。寅さんが大好きだったお父様が、息子が山田洋次監督と仕事をしているのを知ったらどんなにか喜ばれたことでしょう。山田監督との初仕事は『おとうと』で、すでにお父様がお亡くなりになった後だったのが残念だったとおっしゃいます。今でも仕事仲間の作品や世界中の様々な映画を見ていらして、なかでも最近衝撃だったのは『ニーチェの馬』(11)だそうです。穏やかに丁寧にお仕事の説明をしてくださった渡邊さんですが、常に目に入る光を計算されている科学者のような一面も見受けられました。

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