仲直りのおむすびとお味噌汁

仲直りのおむすびとお味噌汁 ―『生れてはみたけれど』より―
伊藤麻衣子 Maiko Ito

新年が始まりました。一年で一番、日本らしさを感じるのがお正月ですから、少し日本の良き時代に立ち戻る意味で、最初の作品は小津安二郎の名作『生れてはみたけれど』を取り上げます。

郊外に引っ越してきた良一と啓二の兄弟。近所のガキ大将グループから目を付けられても、ひるまず挑む二人。
しかし、ある日、自分たちの家では憧れのお父さん(課長に昇進したばかり)が、岩崎くんのお父さん(専務)に頭が上がらないことを知ってしまいます。子どもの社会とは違うサラリーマン社会。初めて見た父の姿に二人は、お父さんを責め、「ご飯を食べない」と宣言するのです。

意地になって朝ごはんを食べない二人に、お父さんは「おみをつけができたから」と誘い、それでも庭から動かないので、おかあさんに「むすびでも作ってあげなさい」と優しい一言。そのおむすびの美味しそうな様に、二人もついに陥落。仲直りすることになるのです。
映画に出てくるのは、シンプルな塩むすびですが、今回は子どもがうれしくなるように「変わりおむすび」を作ります。お味噌汁も一年の初めですから、ちょっとだけ手間をかけてお出汁をとるところから始めてみましょう。

■変わりおむすび
【材料】
白米 3 合(540㏄)
水 600ml
塩 少々
水 ※手をぬらす用
梅干し 2個
のり 1~2枚
さけじゃこふりかけ ※なんでも良い
油味噌 適量
野沢菜(葉の部分) 適量
たくわん 適量

■お味噌汁
【材料】
煮干し 20尾くらい
水 1ℓ
大根 適量 ※その時ある具でよい
お味噌 好みの量で

白米は何度かといで分量の水に30分ほどつけて浸水させます。煮干しも分量の水に入れて30分ほどつけておきます。
※煮干しは時間のある時は頭と腹わたをとると、上品な味に仕上がります。

炊き上がりにこだわって今回はご飯炊きの土鍋(かまどさん)で炊きました。 ※炊飯器でもOK
炊き上がったご飯はしゃもじでかき混ぜて、10~20分蒸らします。

大根は千切りにします。

煮干しの入った水を弱火にかけ、沸騰する直前に火をとめて漉します。お出汁をお鍋に戻して火をかけて、大根を加えます。

大根に火が通ってきたら、味噌を溶いていきます。絶対に沸騰させないように気を付けて、火を止めましょう。

まずは手をきれいに洗ってから、ご飯は蒸らし立てのアツアツの時に、おむすびにしていきます。まずはサケじゃこふりかけをまぜます。手に水と塩をつけて握っています。あまり強くにぎりすぎないように。

次は塩むすびを作って、広げた野沢菜の上にのせ包みます。
3つ目は梅干しを入れたおむすびを握って、海苔を帯にしてつけます。
4つ目は油味噌を入れて、握ります。こちらは前面を海苔で包みます。

お皿に変わりむすびを盛りつけて、たくわんを添え、あたためたお味噌汁をお椀につけたら、出来上がりです。

誰かに食べてもらうときは、ラップで包んでおむすびを作りますが、自分の家庭で食べる時は素手で握るのが絶対おすすめです。やっぱり作る人の手の温かみがあってこそのおむすびなんだと思うのです。きっと良一と啓二の兄弟も、お母さんの作ってくれたおむすびに意地を張っていた心がほぐれたはずです。

本作はモノクロの無声映画なのでセリフがなく、ナレーションや字幕で説明が入ります。セリフに慣れていると最初は不思議なのですが独特の味わいが生まれてきます。
今住んでいる千駄木に引っ越してきた頃、近所の広場で無声映画『番場の忠太郎/瞼の母』の上映がありました。大きな空き地に小さめのスクリーンが立ち、上映と活弁、なんとギターとフルートの演奏付き。近所のおじいさんやおばあさんがそれはそれは楽しそうで、小学生もちらほら。私も活弁は二度目くらいでしたが、野外上映は初めてで、なんだか夢のような時間だったのを覚えています。古き良き日本にふれる時間、大切にしたいものです。

*VHSではナレーション、DVDでは字幕がついています。

伊藤麻衣子(Maiko Ito)
福島県白河生まれ。4人兄弟、男兄弟にかこまれて育つ。
今は映画などの宣伝と、沖縄の器の営業を生業に。料理上手の母を見て育ったので、気づけば料理が趣味に。今回はこのコラムで映画、器、料理と自分の好きなものをどう形にできるかが楽しみです。
美味日和~谷根千暮らし~

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≫父と息子のフレンチ・トースト ―『クレイマー、クレイマー』より―
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