「009 RE:CYBORG」

映画と本をご紹介するコラム、第7回です。

「009 RE:CYBORG」
矢本理子(Rico Yamoto)

<サイボーグ009> ― ある年齢の日本人には、懐かしいタイトルでしょう。世界征服をたくらむ“ブラックゴースト”によって身体を改造され、特殊技能を持つ身になってしまった9人のサイボーグ戦士たちが、世界の危機を救うために、自分たちを造りだした“ブラックゴースト”そのものと戦う、壮大なSF漫画です。1966-68年、79-80年、2001-02年の3期にわたりアニメ化されています。
この有名な漫画の生みの親は、石ノ森章太郎氏。「仮面ライダー」の原作者としても有名ですね。

実は、<サイボーグ009>の成立は、すこし複雑です。当初は、1964年に『週刊少年キング』で連載が始まった第1期(「誕生編」「ベトナム編」「ミュートス・サイボーグ編」等)と、1966年から『週刊少年マガジン』に連載された第2期(「地下帝国ヨミ編」)によって、物語は、いったん終焉を迎えたはずでした。しかし、続編を願う多くのファンの熱望によって、石ノ森氏は、再び執筆にとりかかるのです。その後は、『冒険王』『月刊COM』『週刊少女コミック』『SFアニメディア』など、複数の誌面で続編が連載されました。しかしながら、1998年に、石ノ森章太郎氏が逝去されたため、この作品は未完の大作となってしまうのです……。
生前、完結編を構想していた石ノ森氏は、まずは小説版≪2012 009 Conclusion GOD’S WAR≫を出す予定でした。小説上の最終決戦は2012年に想定されていたそうです。一度は中断されてしまった小説版ですが、石ノ森氏の長男で俳優の小野寺丈氏が執筆を引きつぎ、2006年に第1巻が刊行されました。今年からは、webの『クラブサンデー』で漫画版の配信もスタートしており、10月下旬には、いよいよ<サイボーグ009>が完結します。

今年はさらに、映画版「009 RE:CYBORG」も公開されます。こちらは、「甲殻機動隊S.A.C.」や「東のエデン」を手がけた神山健治氏が脚本・監督を務めています。舞台は2013年。主人公・島村ジョーは、3年ごとに記憶をリセットされる高校生という設定です。ロンドン、上海など世界の主要都市で同時多発爆破事件がおこり、混乱が生じます。事件を起こしたのはどんな組織で、背後には誰がいるのか。その野望を阻止するため、世界各地に散らばっていた戦士たちが、再びギルモア博士の元に集結します。事件の謎を追う者、姿を消す者、敵対しあう者が出るなか、“真の敵”とは誰なのか、様ざまな疑念がサイボーグ戦士たちの間にわき起こります。

「009 RE:CYBORG」は、原作との繋がりを持たせつつも、全く新しい物語として創作された映画です。キャラクターデザインも一新されており、昔からのファンには少し違和感があるかもしれません。でも、物語のスケールの大きさと、ド迫力の映像表現は、まぎれもなく、<サイボーグ009>です。この作品は、映画館で3D映像での鑑賞をお薦めします。きっと新旧ファンの双方を、満足させてくれることでしょう。

初掲載から50年余りを経た今も、多くのファンの心をつかんでいる<サイボーグ009>。その魅力は何なのでしょうか? 私は、この漫画が放つ普遍性が、その理由だと思います。1960年代と現代とでは、世界をとりまく状況はかなり変わりました。勧善懲悪という思考では物事が解決されない複雑な時代、それが現代です。映画版「009 RE:CYBORG」にも、この視点は受けつがれています。“正義のための戦い”と言うことは簡単ですが、その“正義”が何を意味し、誰のためのものなのか、それが今、現代に生きる私たちに問われています。なぜ、誰のために戦うのか、というサイボーグ戦士たちの苦悩と重なりあう部分があると思うのです。石ノ森章太郎氏の先見の明に、いま改めて、驚かされます。

石ノ森氏は、宮城県登米市中田町石森の出身です。ペンネームも、この地名から取られました。また、宮城県石巻市には、≪石ノ森萬画館≫があります。川の中州に位置する萬画館は、津波の被害をうけて閉鎖されましたが、11月17日の再オープンに向けて、いま修繕工事が行われています。先日10月13日には、「009 RE:CYBORG」の全国公開に先がけて、石巻市で試写会が催されました。石ノ森章太郎氏の故郷である宮城県のいち早い復興を、心より願っています。

石ノ森萬画館公式サイト

映画公式HP
10月27日(土) 全国公開
(C)2012『009 RE:CYBORG』製作委員会

矢本理子(Rico Yamoto)
東京うまれ、茨城県そだち。大学では社会学と歴史学を、大学院では西洋美術史を学ぶ。
1995年に岩波ホールへ入社。
現在は宣伝を担当。

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